黒鷲の旅団
29日目(4)お待たせしておりますので

「うあー、ごめーん!
 分かるー! 凄い分かるぅー!」

 頭を抱えてグネグネするイーディス公主。
 ご理解いただけて何よりだが。

「分かる! 俺もめっちゃ分かるわー!」

 同じ動作でグネグネするハドルストン氏。
 この人はフザけてるだけか。
 それとも親目線だろうか。

 雪風の大隊の為に保釈金を持って行った折。
 後での同行を依頼されて、拒否。
 理由は子供達が拗ねちゃうから。
 パパが約束破ると後が怖いんだよ。

 イーディス公主、リアルでは社長令嬢。
 父親は甘やかす一方で忙しい。
 度々構って貰えなかった子供だ。
 言えば同情してくれるとは思った。

 さて、大隊逮捕者の保釈金、も払うけど。
 先に『そっち』を何とかしたい。

「助かるだろうか」

 アリアンリーズさん。助けましょう。
 連れの戦争捕虜、欠損者が死に瀕している。

 容体が悪い欠損者は2人。
 傷口は焼いてある。
 乱暴だが止血の処置済み。
 しかし浅かったか、血が滲んでいる。

 止血魔法ブラッドキープ。
 造血魔法ブラッドメイク。
 活力魔法バイタルキュア。
 培養魔法カルティベート。
 縫合魔法スチュアライズ。
 鎮痛魔法ペインリリーヴ。

「特化治癒魔法って奴だね」
「ふむ。止血と造血が欲しい」

 ハドルストン氏とアリアンリーズさん。
 興味があるなら1つ2つ伝授しても良い。

 それにしても。
 雪風の大隊とアルビオン一党。
 居合わせているが、別段揉めるでもない。
 目的が競合しなければそんなモンか。
 中庭ではゼルフィカールとヘーゼルダイン。
 剣士2人で試合を始めた様だし。

 処置完了。魔法を伝授して。後は金か。
 アルビオン一党から戦争捕虜引き取り。
 健常者7人。70万。
 欠損あり5人。10万。
 の、倍値。160万。金貨16枚。

 雪風の大隊、逮捕者保釈。
 暴行や迷惑行為。重犯罪は未遂程度。
 それでも逮捕者17人に100万ずつ。
 1700万。金貨170枚。

 ちなみに犯罪の罰則金など。
 こちらは追って請求となる。
 冒険者だ。冒険して稼いで来いといった所。
 一山当てて放免か。
 それとも、そのまま死ぬかはともかく。

 戦争捕虜達の今後は。公主。
 バルビエ夫人が後で面通しに来ると。
 件の支援事業。孤児院増設だのと。
 もう動き始めたのだろうか。

 ……すぐ引き取れるのか、どうか。

 欠損者は義肢の手配も必要だろうし。
 まだ亜人種差別もあろう。
 馴染めない子はコチラでも考える。
 まあ、昼食時にでもまた連絡しようか。

『パパさん、まだー?』
『行こうぜー?』

 トゥリンとマルカから通信が来てしまった。
 もう少しだから待っといて。

 後を公主に任せ、子供達と合流したい。
 王城を出た所、今度はヴラスタから通信。
 コドレアの駐屯地、何かあった?

『や、まだ……分かんないけど。ですけど』

 曰く、村落の方に冒険者が来た様で。
 偵察らしいのが駐屯地にも来た。
 泊っていた神父達と話して帰ったという。
 揉めてないなら良いが、何しに来たのやら。

 全部で何人ぐらい……分からんか。
 村には20人ほど騎馬で入ったと言う。
 ただ、護衛対象か連中の仲間かは不明。

 探知魔法持ちは居たっけ?
 メリカやイヴォナか。
 彼女らの話では敵対的じゃなかった。
 ただ、熟練度はそう高い方でもない。

 低レベルの探知魔法は識別が大雑把だ。
 変態的好意が敵対に含まれるか分からん。

 警戒は怠らない様に、かな。
 小さいのを1人で歩かせない様に。

 動向も知りたいが……
 いや、無暗に接触しなくて良い。
 神父が何を話したかだけ聞いておいてくれ。
 ジュス姉さんは引き続き駐屯地配備。
 何かあったら通信持ちが声を掛けて。

『おっちゃーん?』
『済んだー?』『まだー』

 ティルアとカリマ、リリヤからも通信。
 分かった分かった。今行くから。

 ヴラスタには注意警戒の伝達を指示。
 後で顔を見せるからと言って。
 こちらは首都の北門へ。
 一旦北に向かいますよー。



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