黒鷲の旅団
29日目(6)保全は大事
「うわ、ヤバイ」
「やばいね……」
うん、ヤバいな、これは。
イェンナ、ユッタ、兵隊さん呼んで来て。
開拓村、神聖教会支部。
調べたかったのは魔物除けの措置だ。
施しているのがここだと聞いて。
訪ねてみたら、鍵が掛かっている。
窓から覗いてみたら、中は血の海だった。
神父とシスターが居たと聞いた。
安否も気になるが、踏み入るのは軽率。
推理物の主人公やらの様な義務感も無い。
余計な疑いを掛けられるのは御免だ。
晴らせる疑いでも説明が面倒。
鍵を開けるのは憲兵を待ってからとして。
外から探れる情報は……探知魔法。
生存者の反応無し。
空間魔法、空間把握。
どうやら死体が3つある……3つ?
2つは神父とシスターだろうが。
残りの1つは誰の物だ?
追跡魔法にも反応は無し。
犯行に魔法を使っていないなら辿れない。
とにかく……神父とシスターが死亡。
魔物除けが消えてるのはこれが原因だろう。
集落における魔物除けの措置。
魔女の物なら結界や何かの魔法を使う。
あるいは触媒に定期的に魔力を補充する。
質は違えど教会の物もそうだろう。
管理する人間が居なければ効力を失う。
犯人は……それを狙っての犯行か。
動機は別で、結果そうなっただけか。
村の憲兵が来てくれて。
まだ鍵が掛かっているのを確認して貰う。
解錠魔法。と、看破魔法。
音紋解析、空調、気象観測魔法。感無し。
居ないな? 誰も隠れてないな?
改めて、調査をお願いします。
見ればまだ気にしている様子のユッタ達。
気になるけれども後にしよう。
殺人犯探しは俺達の領分じゃない。
事件の概要だけ後で聞いてみる事にする。
こちらの本業は領土保全の方だ。
村の維持。村人の安全確保。
次の魔物除けが来るまで応急措置が欲しい。
子供達に役割分担する。
ルーシャとフリーダを中心に防壁造り。
前せっかく作ったのにねーとマリナ。
前に作った防壁。かなり崩されている。
まあ、わざわざ崩されているんだ。
敵の邪魔くらいにはなったのだろう。
これ要るか―とアンゼさん。
セルブス、逆茂木を覚えていた。
どんどん作っちゃってください。
戦端の刺々した長い枝。
地面に刺して立てる。防柵代わり。
平気でも好んで突っ込む魔物はおるまい。
侵攻を阻めば村人が退避する時間が出来る。
それから、村の外。捕虜のトロールは。
アンヌの聞き込みが済んだ様だ。
トロール達は特殊な個体ではない様子。
前から村を狙っていた。
が、魔物除けに阻まれて手が出せなかった。
魔物除けが消えて襲撃に及んだ、と。
消えたのはいつ。昨晩ぐらいか。
マイナさん、教会の魔物除けの効果は。
1日は持つはずだという。
犯行時刻は一昨日の晩、かなあ。
後で憲兵達に告げて行こう。
調査の助けになるかどうか。
トロール達の出自は魔王軍。
首都襲撃失敗の後、野盗になっていた。
こいつらは魔王軍に戻される。
すぐ戻って来てまた村を襲う事は無い。
情報の代価としても、この場では殺すまい。
アウローラさんに通信を入れる。
代わりの神父は……
そうすぐに派遣出来ないか。
ただ、魔物除けの措置には来てくれる様子。
午後には到着するだろうという。
そちらは任せて魔物退治に回るか。
そんな折、通信が来て。ヴラスタか。
『親父さんっ……ああっ、マズイよ!
ヤバイヤバイヤバイ!』
何かあった。何がヤバイ?
どうにも混乱している。落ち着いて。
例の冒険者か? 竜? え、ズメイ?
『ど、どっ、どうしよ!
うわっ、うわー……!』
ジュス姉さんからも通信。
こっちも混乱しているが。
映像付きの通信に、竜。ズメイの姿。
村に向かって炎を吐いている?
誰かが助けてと叫んでいる。
陣地を捨てる。脱出。
子供達は村人の救助を考えない様に。
全員、南へ向かって退避しろ。
察するに、村に行った冒険者だ。
竜を刺激したのだろう。
倒したでもなく、報復攻撃。
その敵意が村にまで及んでいる。
振り返れば、子供達にも通信が行ったか。
不安そうな顔で集まって来ている。
救援に向、か……おうか。
置いて行って飛び出されてもな。
竜とは戦わないとして負傷者は助けたい。
ポータル。コドレアはダメか。交戦状態。
ブラショヴに飛んで北上しよう。
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