黒鷲の旅団
29日目(8)早まったな?
「…………だ、大丈夫か?」
唖然とした様子のヴァルター隊長。
あんまり大丈夫くないです……げふっ。
急ぎ黒獅子隊と合流。合流する為。
アンヌが俺を肩に担いで運んだ。
揺れたし、腹に肩を当てられて痛いし。
転移魔法で良かったんじゃないかなあ。
「お兄1人で行かせられないと思って」
助かるけど、急にお米様抱っこヤメテ。
お腹痛い。ぽんぽんぺいん。
衝撃に俺の言語が崩壊しとる。
子供達の守りは。
フレスさんが、魔女達が来ている?
早速、通信魔法が飛んで来る。
『しょ、正念場ですね! ズメイですか』
『おっしゃあ、倒すぜドラゴン!』
『この命に掛けてもってね!』
待て。待って。魔女さんズ、ストップ。
盛り上がってる所、悪いんだけれども。
黒獅子隊も歩きながら聞いてくれ。
竜との距離を詰めながら、作戦を説明する。
結論から言って、竜は倒さん。
ブチキレが治まるのを待ち、お帰り頂く。
黒獅子隊の義務は国土防衛・民衆救助。
こちらで既に村人の撤退支援をしている。
これを依頼あっての撤退支援としよう。
敗走しても手を尽くした名目は立つ。
命が尽きるまで戦う必要は無い。
一方で、戦ったという痕跡は残そう。
カルバリン砲を乱射して竜の気を引く。
これは当てない。当てても効かないが。
ダメ元で当てるより当てない方が良い。
元々が温厚な竜だ。
村人の悲鳴にバツが悪くなっているだろう。
ふと正気を取り戻す可能性はある。
あえて外して撃つ。音で注意を引く。
ぶっ放して竜が動き出したら逃げる。
負けたフリして溜飲を下げよう。
村人を逃がして、撤退。暫く放置。
「よっしゃ! やるぜ、お前ら!」
「生きて帰れる気がして来たぜ〜」
引き攣った顔で笑う黒獅子隊の面々。
相当に死を覚悟して来たのだろう。
緊張がほぐれて来ている。
そんな折、竜の顔の辺りで爆発?
魔法?誰がやった。姉さん?クリム?
違う。誰か居る。誰かが竜と戦っている。
近付いた為、探知情報が精度を上げた。
竜の、ズメイのステータス異常表示。
収まりつつあった竜の怒りが再燃。
可視化されたゲージが急上昇する。
誰だ、余計な事を。
最初に竜にチョッカイ出してる連中か。
探知、解析。何人居る。13、14……
冒険者が3パーティぐらい。
その内の1チームは六竜旅団か。
前にジュス姉さんが手玉に取った奴ら。
それが似た様なのと連合を組んで。
レベル30台から、高くて50手前だろうに。
姉さんより強い竜に挑んでいる?
ダメージは通っているのか。
解析ログ。1桁2桁のダメージが並んで。
唯一、アレスとかいう魔法剣士。
こいつの攻撃がダメージ3桁台。
対竜特効装備なのだろうか。
しかしだな……竜。ズメイ。
総HP表示が4百万オーバーなんだが。
幾ら神人が生き返るからと言って。
倒し切る前に近隣が焦土と化す。
通信。えー、誰だっけ、魔道士。
六竜団の男の、名前はマグナスだったか。
何をやっている。撤退しろ。
まだ避難中の村人が居るんだぞ。
戦うんでも竜を村から引き離せ。
『し、仕方なかっ……いや、すまない!
読み違えた。期待外れだったんだ!』
曰く、神銀と霊銀を間違えた?
目立ってダメージを与えているアレス。
あいつに騙されたとマグナスは言う。
あいつの竜殺剣とやらが神銀だと聞いて。
神銀アダマンタイト製なら効くだろうと。
よくよく聞けば『神銀ミスリル』だった?
この世界じゃミスリルは『霊銀』だ。
騙したか勘違いしていたかは分からんが。
ミスリル製でレベル2千の竜は倒せない。
マグナスも、そこまでは分かっていて。
しかし仕掛けてしまって引けなくなった?
目当てはファーストアタック報酬。
最初に仕掛けたパーティが何か貰える?
弱小が強装備を手にして成り上がりたい。
それで撤退を渋っていると。
自分達で倒せもしないくせに?
挙句、後詰の用意も無いとは。
援護を要請されるが、断る。
いっそお前らを討伐しようか悩んでいる。
すぐ撃たない理由は生き返るってだけだ。
ゾンビ粘着もご免だが竜とも揉めたくない。
ホントにどうしてやったモンだか。
黒獅子隊、砲撃用意を。
アホ共まで撃つかはさておいて。
まずは竜の誘導を試みたい。
照準は……変に外れて竜に当たってもな。
分かり易く俺達の駐屯地にする。
また建て直せばいい。
照準だけして待機。
俺が爆薬魔法を仕掛けて来る。
仕掛ける。のと、避難。
誰か村人が駐屯地に逃げ込んでいる。
すぐ守ってやれなかった村人達。
せめて避難は果たさせてやらないと。
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