黒鷲の旅団
29日目(9)キープ、キープ!
『いいから行けよ!』『突っ込め!』
『だ、ダメだよ! 命令だもん!』
『勝手したら怒られちゃうのです!』
子供達……大丈夫かな。
言い返しているのはユッタとカリマ。
何とか言い逃れしているか。
村人避難の為、俺は駐屯地へ。
一方で、子供達は冒険者の接触を受けた。
ティルアの通信映像と解析情報。
神人の勇者パーティとは違う。
恐らくブラショヴ在住の唯人連中。
緊急任務として竜の撃退に来たのだろう。
俺からもダメ押しの通信を送る。
こちら黒鷲団は領主の依頼を請けている。
村人の撤退支援だ。邪魔をするな。
公務執行妨害でお縄が欲しいのか?
嫌なら竜に行け。子供達に構うな。
それでも躊躇う冒険者達だったが。
レーネやヘルヘレが威嚇して。
ようやく渋々と離れて行く。
離れて……竜に向かうでもない様だが。
まあ良い。離れてくれれば。
こちらの状況は。駐屯地の内部に村人。
家族連れが3組か。避難して来ていて。
すまないな。
相手が盗賊とかならともかく。
竜相手に救援を出す余裕が無かった。
村人達を駐屯地から南へと促して。
手筈通りに爆薬魔法を設置。
村の方の状況は。ジュス姉さん。
『居たよ、居た!
ミロシュが生きてた!』
ミロシュ。って誰。
やられたと思ってた村の子か。
竜も怒ってるなりに手加減している?
生存者を回収したら退避してください。
そろそろ次の動きに移ります。
『ええい、援護はまだか!
何をやって、ぶあああっ!?』
竜のブレス。勇者が焼かれた。
今のがアレスだったか?
神人だ。30秒もすれば生き返る。
あんまり気の毒さも無いとして。
ブレスが2、3……4秒。連続照射。
4秒。俺に向けられたら防げるか?
防御系の手段では突破されそう。
では相殺したらどうか。
凍結系では無理。空間浸食なら。
空間浸食魔法は展開時間が1秒ちょい。
かつ、魔力消費的に連続3発が限界。
仮に魔力薬を掻き込んだとして、4発?
しかし4秒も、あれで限界か分からん。
もうちょっと頑張られると……ダメだな。
そもそも撃たれない様にしないと。
『そこの! 探知で見えてるぞ!
避難誘導とか、統治系プレイヤーだろう。
手を貸せ。我々で竜を討伐する。
利害は一致しているハズだ!』
復活待ち、半透明なアレスと通信魔法。
もっともらしく協力を要請して来るが。
通信越しに読心魔法。その心は。
(くそう、俺は勇者で賢者のエリートだぞ。
竜を殺した手柄で成り上がってやる。
あの生意気な女王も俺の女にして……)
何か見えた。
『おい、何を覗き見している!』
おっと気付かれた。向こうも術者だ。
いや、何でもー。
ちょっと検討させて下さい。
などと、はぐらかしつつ。
勇者だの賢者だのは、よく分からんが。
私情だな。見返したいか何か。
それで竜を刺激して。村を危険に晒して。
もういっそ、あいつを撃ってしまいたい。
しかし、撃ってしまって、どうなる。
生意気な女王、と。粘着気質の感。
恨みを買って粘着されるのは論外だ。
掛かって来たら倒せなくも無いが。
勝った負けたの1回で終わりじゃない。
矛先を子供達に向けそうでもある。
しかも神人。殺しても生き返ると来た。
正直、関わりたくないなー……
そうだ、女王と言ったか。
奴はアーデルハイト側?
アレスに返答。俺はリュドミラ派閥だ。
女王とは競合関係にある。
俺達で手を貸すと女王の威信が落ちる。
村の保全の為、竜を草原まで誘導するから。
あとは邪魔しないから好きにやってくれ。
『勝手な事を言げぶッ!?』
通信途絶。復活するなり竜に踏まれたな。
解析。ログ。アレス死亡状態。
あと、ミスリルブレード損壊。
頼りの強武器を失って、どうするやら。
黒獅子隊から通信が来る。
手筈、照準調整は良いか。
砲撃手と指揮代行のアンヌ以外は南へ。
うちの子達と合流して下さい。
脱出させた村人を集めている。
領主軍として保護、誘導。
もう大丈夫とか言って落ち着かせて。
残りのチームは砲撃と撤収準備。
大砲を撃って、設置した爆薬魔法に点火。
爆発したら散開しろ。大砲は放棄。
派手に騒ぎながら逃げてくれ。
『子爵殿は』
更に横槍を入れて竜を誘導する。
そっち追い続けられても困るし。
頭も冷やしてやらないとな……
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