黒鷲の旅団
29日目(10)給水術師と御破算勇者隊
「ぐる、ぐるるる……くるる」
よーしよし、美味いか―、って。
いや、そうじゃなくてだな……
村の隣、俺達の駐屯地を爆破して。
竜の意識を反らした。
魔法で追撃して注意をこちらに向けた。
そこまでは良かったんだが。
誘導が、まるで進まない。
まずは敵愾心を煽りたくなし。
水、水球魔法を放ってみた。
これが食べられてしまう。
戸惑っていると口を開けて見せる。
もっとくれとでも言いたいのか。
氷花魔法、氷結魔法……も、捕食。
ばりばりごくん。ぶふーと鼻息。
ダメージらしいダメージは無い。
火炎ブレスを吐いていたハズだが。
水や氷結系が弱点でもなさそうだ?
加えて、俺が動く度に解析が飛んで来る。
俺が竜に解析されている。
解析されて、探知情報が友好化して。
友好化は良いんだが、その先がー。
ドラゴンさん、ズメイさんよ。
村から出て行って欲しいんだけれども。
呼び掛けても言語まで理解されていない。
竜はぐるると鳴くばかり。
鼻先から少し離して水球を放る。
竜は食べようと前に出て来る。
出て来るんだが、すぐ村に戻ってしまう。
その執着は村に、というか、勇者に?
時折振り返っては尻尾を振る。
脳内ログに死亡通知が4〜5行並ぶ。
神人の勇者達が尻尾で磨り潰されている。
勇者……5人? 少なくないか。
見れば、六竜旅団。マグナス達。
少し離れた所で協議の様相。
他にも7人ばかりサボっているな。
竜に水球を放りつつ、通信をやる。
マグナス、そっちは何かお困りか。
『は、破産するッ……かも!』
え、破産? 金?
曰く、連中は討伐報酬目当て。
分配金目当てで参戦しているらしい。
しかし現状、倒せる気配が無い。
消耗品も、装備の耐久値も下がる一方だ。
加えて村が壊滅している。
慰謝料や復興資金を取られるかも知れない。
で、退くに退けなくなっている、と。
そこをどうにか退けないかな。
金の方を何とかする方向で。
俺から公子公女に言おうか?
支払いを待って貰うとか。
幾らか無利子で貸しても良い。
『お、おお、マジか! 助かる!』
『そうだよ、そっちリュドミラ軍じゃん』
『しかしだな、義理立てってモンが』
『そんなこと言って、未練タラタラ』
1人難色なのは戦士ヴァルケイン。
義理立てと言うのは他のチームにか。
それに対して魔術師コンチータ。
未練と言うのは……まだ倒す見込みが?
村も壊滅して、騒ぎも大きくなった。
誰か強者が駆け付けてくれないか。
応援が来る奇跡を期待しているのか。
だが今、魔王軍の進行が停滞している。
魔王と戦う女王配下は遥か北東へ。
それ以外の興味はダンジョンに向いた。
だから……来なくね?
ファーストアタックから競争相手不在。
分かってて仕掛けたんじゃないのか。
うーんと唸るヴァルケイン。
まあ、自分達だけ逃げても体裁が悪い。
他の連中はどうしているか。
竜の後方を見る。
掛かって行っては跳ね飛ばされる前衛達。
対して、後衛は魔力切れか意欲切れか。
竜の間合いの外で見守っている感。
そもそも、竜。ファンタジーな生物だが。
それでも生物だ。自然回復力がある。
現状、与ダメージがそれを下回っている。
頑張るだけ時間の無駄だろう。
あしらう竜の攻撃は実に片手間的で。
唯一アレスだけ念入りに潰される。
あるいはブレスを……
「きゅおおおっ!」
火炎ブレス、が、レーザー。
火炎放射でなく光線状に吐いた?
2種類を撃ち分けられるのかよ。
竜はアレスを執拗に狙っている。
取り巻き後衛には興味も無い様子。
与ダメージのヘイト差……違うか。
竜のHP4百万を前にして、だ。
ダメージ50も120も大して変わらん。
『やっぱ、卵じゃね?
あと、チビ竜が』
斥候ポントゥーン、卵とチビとは。
アレスが殺したのか。竜の子供を?
そりゃ竜もキレるだろうよ。
俺は村から竜を出したい。
竜はアレスをぶっ潰したい。
じゃあ、もう、あれだ。
村からアレスを出すしか無いじゃんよ。
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