黒鷲の旅団
29日目(11)別解
「今だ! 行くぞ!」
「やめろ、バカ! 放せ!」
「馬鹿はお前だ、責任取れおらあああ!」
アレスを囮に作戦、開始。
竜の隙を突いたマグナスとヴァルケイン。
アレスを引っ張って村の外に走る。
……が、マズイ!
捨てろ! 左右に跳べ!
「え、うおっ!?」
竜の熱閃ブレスがアレスを狙った。
直線レーザー状の照射。
アレスが真っ二つに。大した収束率だな。
マグナス達は。どうにか回避したか。
まあ、よしんば当たっても生き返るんだが。
竜、村の入り口に鎮座。
追って来てくれる気配が無い。
射程圏外まで走れは動くかもしれないが。
どこまでだ。どこまで行けば良い。
アレスも抵抗する。生き返っては逃げ回る。
捕まえ直している間にまたブレスが来る。
「あちち! あちちち!」
竜、今度は火炎放射状のブレス。
マグナス達を追い散らしている。
アレスを逃がそうとしていると思われた?
転移魔法、ではダメか。
急に消えると竜の敵意が迷走する。
黒獅子隊とかに突っ込まれては困る。
第一、俺から大々的に手を貸せない。
折角反らしたアレスの恨みの矛先。
それがまたこちらに向いてしまう。
マグナス達が憎まれ役を買ってくれた。
そこに水を差しては水の泡だ。
ええい、まどろっこしいな。
情報量の割に状況が進まない。
他方面、各種制約、掌握に指示出しに。
魔女の誰かに補佐を頼むか?
「こっち向けおりゃあああああ!」
ん? 不意にクリムさん?
森の方からデカい物を担いで走って来る。
2mぐらい。鱗の塊。目があって。
何それ……竜。子竜か。
「速い! おっさん速いー!」
「おっさんゆーな! お兄さんだっ!」
クリムさんを追い掛けて来た子供達。
イェンナを筆頭に、ユッタ、フェドラも。
揃って森に行ってたのか。
危険、いや魔女達が一緒だったかな。
森の上を何人か飛んでいる。
「あのっ、あのね! 生きてっげほげほ!」
「冒険者が、あぶっ、危ないからっっ!」
息も絶え絶えのユッタ達。落ち着いて。
鎮静、活力、空調……おや。
調息魔法ディープブレシング。
呼吸を助ける魔法が派生した?
子竜が生きてたのは分かったが。
冒険者がどうしたって?
曰く、冒険者が森に向かっていたという。
討伐組でなく、先に出会った唯人達か。
お宝か素材目当てかはともかくとして。
住処を荒らされる、また竜が怒ると思って。
見に行ったら生きてる子竜が居た?
「この子、除細動が間に合ったんだよ〜」
フェドラの除細動魔法が間に合った?
そこそこ時間が経っていたと思うんだが。
彼女の魔力量ゆえか、竜の生命力か。
息を吹き返して、治療して、連れて来て。
何匹居て? 全部?
助かったのは1匹だけか……
「きゅるるー! きゅるるー!」
「ぐる、ぐるるるる」
子竜と親竜が何か喋っている。
竜語は相変わらず解読出来ない。
出来ないが、嬉しそう、かな?
やがて親竜、子竜をひょい、ぱく。
えっ、食べた?
違った。開けた口から子竜が顔を出す。
口に入れて運ぶのか。
背中に乗せても落っことすから。
「きゅうー」
「あはは、可愛い」
「元気でねー」
子竜に子供達が手を振って。
親竜は山へと飛んで戻……る、前に。
振り下ろされる前足がアレスを磨り潰した。
ぐり、ぐり、ぐり。キツいダメ押しだ。
満足して、竜がふわりと飛び上がる。
魔女さんズに通信。退避してください。
竜がそっち向かいます。
飛び去る竜を見て、ぼんやりと思索。
今回の俺は、まごまごしてただけだな……
まだ頭が、思考の中心が戦場にある。
もっと視野を広く、柔軟になるべきだろう。
竜退治、ではないが、騒動は一段落。
しかし内政としてはここからだな。
一息ついたら村と駐屯地を直さないと。
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