黒鷲の旅団
29日目(12)応報

「この、アホ! アホ共!」
「ぐあっ!」「ぐえ!」「ふぎゅ!」

 ブレンダン支部長、怒りの鉄拳。
 拳骨が神人勇者達の頭に落とされる。

 リュドミラ公女率いる国軍が到着。
 これに、ブラショヴの冒険者ギルド支部長。
 ブレンダン氏が同行していた。
 着いて早々、拳骨とお説教の雨。

「倒せなかったのは仕方無い。
 だが、竜連れて村に戻るとは何事だ?
 村人が何人死んだと思ってる!
 何人……えー、黒鷲さんよ」

 あ、はい。8人です、ボス。

 子供こそ見逃されたが、村人に被害がある。
 死者8名。重軽傷が30余名。

 この、死者数8人。
 これがキッチリとした仕返しだった。

 ユッタ達の見て来た話。
 潰された卵が5つ。
 殺されていた子竜が3匹。計8と。
 うち1匹は救助されたのだが。
 やられた数だけやり返している。

 それも、死んだのが冒険関係者ばかり。
 これは観察班。フリスティナ達の証言から。

 宿屋の主人、武器屋、道具屋、村の神父。
 酒場から従業員2名。乗合馬車の御者。
 あと、村外れに住む薬師が1人。

 屈強な武器屋とは戦っていた様だが。
 非力な道具屋を追い回して潰した。
 斧を持った木こりは鼻息で転ばされただけ。
 弟子を庇う薬師を迷わず引き裂いて。
 泣いて殴り掛かる弟子は無視。
 竜は怒りながらも知能を発揮している。

 殺しても生き返る勇者の代わり。
 唯人かつ関係各位の命で贖う。
 これを無差別攻撃とは言うまい。

「ジャンナ、通達をこれに。
 マクシーネは小隊を率いて供を。
 これより私は山に入ります」

「殿下、危険では」

「聞く限り、逃げれば追わない竜でしょう。
 通じずとも、詫びの1つも入れておかねば」

 竜との関係改善を図りたい公女殿下。
 食料を積んだ荷馬車と山へ向かう様子。

 ただ、子供を誰か借りたい?
 竜が子供を襲わなかったから。調停役に。
 俺としては不安だが、フレスさんが挙手。
 同行してくれるという。

 それじゃあ……行きたい子は。
 ぞろぞろと手が上がる。
 みんな行きたいのかい。
 全員だと、いざという時に保護に困るか。
 相談して1小隊ぐらいに絞りなさい。
 きゃいきゃいと人選を始める子供達。

 それは置いといて、通達とやらは。
 騎士達が村人や冒険者達を集めて行く。

 リュドミラ公女殿下に寄るお沙汰。
 村の復興、並びに損害賠償について。
 その損害賠償請求が意外な形になった。
 冒険者ギルドとナントカ伯爵で折半?

 ギルドに張り出されていた竜退治依頼。
 ヴェドラル伯爵、に寄る物で。
 これ自体が国政に反していたという。

 国政。竜を刺激して欲しくない。
 特に子育て中だと発覚した竜だ。
 温厚で知能もあり、単なる害獣ではない。
 下手に怒らせるべきではない。
 リュドミラ側の首脳陣はそう判断した。
 伯爵はここに反発でもあったのか?

 前にマクシーネさんがギルドで依頼を見て。
 審議の結果、棄却命令を発行。
 しかし、これが支部長まで伝わらなかった。

 ギルドは『原則』依頼を取り消さない。
 棄却命令に受付が反発。撤回請求。
 ギルドは国家に対して独立した組織云々。
 命令書を持った兵士を門前払いしていた。
 結果、依頼の取り消しが遅れたのだと。

 原則と銘打つからには例外もある。
 例えば重い人的被害が予想されるケースだ。
 犯罪とか、動物を煽って人を襲わせるとか。
 今回の様な場合も含まれる。

 この、棄却が遅れて冒険者が竜に向かった。
 下手な刺激に竜が怒り村が壊滅した。
 責任の所在がここら辺と見られた。
 半分は職員の教育不足としてギルドに。
 半分は首脳陣の説明を無視した伯爵にと。
 個々人の破産は心配無くなるか。

 続きギルド支部長から冒険者達への沙汰。

 討伐作戦に加わった冒険者達。
 全員にまず厳重注意として。
 金等級以上は白銀等級へ降格。
 心得やら講習、試験のやり直し。
 それと一定期間の奉仕活動とする。

 挑戦自体は止めるべくも無いとして。
 結果的に市民に犠牲を強いた。
 配慮が足りなかったペナルティだな。

「お前らが手伝えば勝てたんだ!」

 抜き身のナイフを手に、アレス。
 結局こちらに恨みを向けるのか。
 どう宥めたモンかと思案していると、

「お前達が来たからっ!」

 アレスの方が、脇腹を刺された……?
 やったのは薬師の弟子か。



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