黒鷲の旅団
29日目(13)賢者が何じゃ?

「う、ぶっ、ぐえええ……!」

 脇腹を刺されたアレス。悶え苦しむ。
 診察。毒状態。ナイフに毒。
 鑑定。各種の毒草・毒キノコのブレンド。
 攻撃に踏み切った薬師って怖い物があるな。

 加えて、ダメージが徹っている?
 刺したのは薬師の弟子。村人。
 一般人の精々レベル3で。
 それでもアレスにダメージが徹っている。

 なるほど、復活に伴うペナルティ。
 竜に殺されてレベルが下がりまくった。
 アレスのレベルは今、7。
 元は50ぐらいの奴だったが。
 最早、市民並みになっている。

 俺はこいつを、アレスを助ける事にする。
 気に食わないが、だから、逃がさん。
 見えない所にリスポーンされたくない。

 神人にそういう選択肢があったハズだ。
 勝てない相手からの救済手段。

 前例はレーネ襲撃犯。
 カシューさんに撃たれて逃げた奴。
 所持品とか放棄して姿を消した奴が居た。
 同じ手段を使われては困る。
 死んだ途端にバックレるか分からん。

 講習やら奉仕活動やらも始まってない。
 まだ支部長のお説教すら終わってないよ。
 解毒、治癒、拘束魔法。
 助けるけど逃がさん。

 他方、薬師の弟子だ。
 神人は生き返る、殺人罪でもあるまいが。
 傷害罪。罪にはなるのだろう。
 対応したジャンナさん配下の兵士達。
 薬師の弟子を取り押さえ、剣を向ける。

 ジャンナさん、提案。お願い。
 薬師の弟子は隔離。薬師の小屋へ。

 見張りを付けて。落ち着かせて。
 殺すな。逃がすな。死なすな。
 えー、死なすな。死なすなよ。
 死なす……あれだ。自殺させるな。
 1人にさせるな。誰か見張って。

 念を押しに押して、やっと通じた感。
 戸惑いながらも兵達。
 弟子を引っ張って行く。

 俺も説明がシドロモドロだ。
 少しばかり動転している。

「だ、だいじょぶ?」
「何か手伝う?」

 振り返ればツェンタとアイリス。
 見れば他の子達も戸惑っているな。

 こっちは大人でやっておくから。
 公女と行く子は行っといで。

 他の子は駐屯地に集合。
 瓦礫とか散らばった物を集める様に。
 フェドラと……ああ、いや。
 フェドラは竜に行くのか。
 ノイエとテルーザに修繕魔法を伝授。

 駐屯地復旧へ。
 始められる所から始めてくれ。
 居住部分だけでもさっさと直したい。

「くそ、俺は勇者で賢者だぞ。
 こんな事してタダで済むと……」

「お前、『賢』者ならもう少し賢く振舞えよ。
 恨み買って刺されてんのは頭良いのか?」

「知力と魔力は違うんじゃないか?
 あんたのは魔法が上手いだけだ。
 自称賢者のアレス様」

 毒づくアレスに支部長とマグナス。
 ホントにな。頭良いやり方かどうか。

 他の村人達も殺気立っている。
 揃って怖い顔をしている。
 農具や何かを手にしているのも居る。
 知人を、友人とか、殺された恨みがある。
 死なずとも家屋に被害を被った。

 そこに勇者だ賢者だと威張る。
 それは賢い行動か。
 もう1回どころじゃなく刺されますよ?

 そう言えば、さっきも……いや。
 その、そもそも何だ、賢者ってのは。

 アレスの基準。賢者の定義。
 魔法を沢山知っていて大魔道士。
 そこに神職の奇跡も使えて賢者だと。
 ウェブの先輩か誰だかが言っていた?

 沢山とか、随分曖昧だなあ……
 しかし、その基準で言うと。
 うちではマイナさんが賢者相当か?
 まだ魔法が、魔女修行が足りんかな。

 ジャンナさん配下が1人駆けて来る。
 どうした。弟子は。舌噛もうとした?

 今、相方が指突っ込んで止めていて。
 ハンカチか何か。ああ、はい。
 適当な布を提供する。
 落ち着くまで口に含ませるのだろう。
 薬師の弟子は俺も話してみよう。

 アレスの方はブレンダン支部長。
 ぐるぐる巻きにして肩に担いだ。
 放って置いても他の村人に襲われそう。
 保護というか連行というか。

 冒険者から村への償い奉仕活動は後日。
 宿屋も主人が死んで泊りようが無い。
 首都に戻るという2チーム。
 アレス一行、『栄光の夜明け団』と。
 もう1つ、『魔狼の戦団』。

 六竜旅団は残ってこちらを手伝うという。
 じゃあ、食事ぐらいは提供しよう。
 公女と行った子が戻ったら昼メシかな。



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