黒鷲の旅団
29日目(14)爪跡
「ぐす、ぐす……あなたは残酷です。
慈悲だというなら、どうか。どうか。
私をお婆ちゃんの所へ送って下さい」
それはそれで酷い話だと思うんだが……
泣きながら語る、薬師の弟子ミリアム。
話せる様にはなったが、まだ冷静ではない。
師匠、薬師の婆ちゃんが竜に殺されて。
仇討ちにと掛かったが相手にもされない。
怒りの矛先は竜が来た原因へ。
アレスにナイフを刺した。
生き返る神人相手でも、一応傷害罪。
拘束したら、舌を噛んで自殺を図る始末。
神人を、異世界勇者を恨む。
無理の無い話だ。
恩赦を提案して。
しかし本人、死刑が良いですの一点張り。
この娘にはどう言ってやったモンだかな。
処遇について、から、話を少し変えよう。
婆さんは、薬師の師匠だったな。
竜から弟子を庇った様にも見えたとか。
何か覚悟でもあったのだろうか。
「竜は、神様みたいな物だって、言ってて。
何でもやっつけるんじゃダメだって。
勇者が来た時も止めようとしてた。
竜が来て、お婆ちゃん謝ってた。
無礼者を止められなかった、不徳だって。
弟子はまだ若いから許して、って……」
思い出したか、また泣いてしまう。
落ち着いて。鎮静魔法。
竜は婆さんの言葉を受け入れたんだろう。
助けて貰ったのに死に急いでどうする。
あの世に行ったら婆ちゃんに叱られるぞ。
ミリアムは少し頷いた。大丈夫かな。
恐らく頭では分かっているのだろう。
時間を置こうと腰を上げ、振り返ると。
同情したのか見張りの兵士がボロ泣き。
あんたにも鎮静魔法が要るのかよ。
落ち着いて。時々交代してな。
昼食も用意してやって欲しい。
……そうだ、昼食。村人は大丈夫か。
多少は貯えがあるだろうか。
様子を見ながら駐屯地へ向かう。
見た所、村には商店が少ない。
酒場は従業員が2人死んだというし。
普段通りの営業は難しいだろう。
あと道具屋だ。村唯一の雑貨屋。
実質コンビニかホームセンターみたいな物。
何でも取り扱っている……言い換えると。
これが無くなると他方面で困る。
薬師、医者代わりが弟子しか居らず。
疾病対策も不安が残る。
ミリアムが立ち直ると良いが。
それと別に、継承し損なった技術が無いか。
魔物は出るけど武具店も不在と。
こっちは最悪、在庫を持ち出すしか?
代金を置いてくかは良心が問われるが。
つまり、何だ……生活の基盤がガタガタ。
家屋もだが、失われた人材。
村の立て直しの前途が厳しいな。
失った物の多い竜退治失敗。
残ったのは村人の被害と冒険者への不信。
あとはバフ付きの称号が幾つか。
アレスに『子竜殺し』。これは悪評だろう。
竜への攻撃力が微増するのは良いとしても。
竜からのヘイト上昇が倍増するらしい。
ユッタ、イェンナ、フェドラ。と俺にも。
称号『竜の友人』がついた。
各パラメータ+5%×パーティの竜の数。
竜人にも適用されるらしく一応プラス。
フェドラに竜殺者ならぬ『竜活者』。
ドラゴンセイバー。
効果は竜種への治癒にボーナス。
マルカとか竜人種には良いけれども。
そもそも怪我させたく無いなあ。
脳筋のクリムさんに『調停役』の称号。
交渉が若干有利になるっぽいが。
そもそもあの人、交渉するタイプか?
ジュス姉さんに土下座陳謝とか?
それと、場に居た全員。
『竜と対峙した者』。恐怖耐性+5%。
5%。微妙。無いよりは良い程度。
あと……貰ったけど消えた奴が。
俺に『保身主義』が付いて消えた。
アレスへの処置が遅かったからだな。
村人から見て動きが悪いと感じただろう。
子供達は我が身同然だ。
保身と取られても仕方無し。
無し……だが、消えた。
何だろう。少し気味が悪い。
審査側で意見が割れているんだろうか。
まあ、称号の事は置いといて。
村人は食事の支度を始めている様だ。
困っては……いる。
老人が騎士ジャンナさん相手に陳情。
補填を急いでほしいとか言っている。
家屋の被害は全壊2軒、半壊5軒。
効き目ぐらい試してから行こう。
修繕魔法11位。フルリビルド。
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