黒鷲の旅団
29日目(17)何も無くては始まらない

「んまいの頼むよー」
「そっちもお話聞かせてよね」

 手を振って別れるユッタとイェンナ。
 ユッタはパティシエさんとお菓子作り。
 イェンナは画家さんとスケッチに行く。

 ユッタ達、主軍メンバー。
 大体2つに割れた感。
 レーネとペトリナ。
 ヘルヴィとヘレヴィ。
 ティルアとツェンタとか。

 パティシエ側が相棒の分もおやつを作る。
 何かそういう話をしている様だ。
 ホント仲良いな、お前ちゃん達は。

 外縁の子はまちまち。
 授業に参加する子も居る一方。
 興味が無い子もチラホラだ。
 参加は強制しない。
 ジュス姉さんと陣地構築の続きでも良い。

 バートはチビ達と画家さんの方へ。
 フランカ隊は隊全員がパティシエに付いた。

 ヴラスタは……迷っている。
 パティシエが気になる一方で、照れ臭い?

 折角だ、話を聞いてみたら?
 男だ女だじゃない。
 男だって料理ぐらいする。
 可愛いお菓子は気後れするかね。
 似合うとか気にしなくて良いんだぞ?

「どした? 行こうぜー」
「そ、そうだね。絵よりはこっちかな」

 マルカがヴラスタの手を引いてくれた。
 というか、マルカもパティシエ側か。

 マルカの意識が少し変わって来た気がする。
 以前は男勝りを意識していたというか。
 可愛い物、女の子っぽい物に照れがあった。
 影響の元は、エメリナやヘルヴィ達かな。
 この所、目で追っている事が多い気がする。

 オシャレな一方で強い子達。
 オシャレに傾倒しても鍛錬はサボらない。
 鍛錬もオシャレも頑張っている。
 自分が頑張っていない所も頑張っている。
 何か張り合いを見つけたのだろう。

 ふと、カーチャとフレヤが戻って来た。
 画家さんの方に行っていたと思ったが。
 どうした。自分でも描いてみたい?

 しかし、お金に困ってるアウグストさん。
 描いて見せる、解説する、ぐらい。
 子供達に画材を用意する余裕は無かった。

 こちらで用意出来れば良いかな。
 製紙、裁断と、錬成魔法。
 紙と鉛筆ぐらい作ってみよう。

 欲しい子は並んで……っと。
 アウグストさんまで並んでしまった。
 製紙魔法を覚えたい。それもそうか。
 画材を自分で作れたら経費が浮く。

 これまで習得は。
 意識はしていたが機会が無かったのか。
 金策に追われ。日々の借金返済。
 副業も冒険者だ。戦闘強化を優先しがち。

 製紙魔法と裁断魔法を伝授。
 伝授にはスキルポイントを振らないと。
 錬成も持ってないですか。
 魔法伝授。代金は、そうだな。
 スケッチの1つも頂けたら。
 記念と参考資料を兼ねて。

 アウグストさん、早速錬成。
 何だっけ、それ。キャンバス立て。
 イーゼルというのか。
 イメージに合う物が買えてなかったとか。

「あたしも作りたい」
「棒? 組めば良いの?」
「こうだ。左右同じ長さの棒と……」
「おー」「ほぉおお」

 設計図を絵で描いてくれる。
 その技能がもう、なるほど役立つ感。
 子供達の感嘆が止め処ない。
 アウグストさん、ちょっと照れている。

 とにかく、こっちは順調そうだな。
 パティシエさんの方はどうなったか。

 遠目に様子を見る。
 生地をこねこね。こねこねこねこね。
 ケーキか……パイかな。
 こちらの人は錬成持ちらしい。

 小麦、バター、シナモンとか。
 素材についても十分持っている様子。
 こちらも放置で大丈夫かな。

 俺は俺で新魔法を……ふひょう!?

「ぶふーっくっくっく!
 面白い反応だわね!」

 不意に脇腹を突いて来たアンヌ。
 パティシエさん側じゃなかったか。
 どうした。わざわざ悪戯しに?

「それもあるけど、あいつ」
『パパさーん』
『おっちゃんー』
『あのね、あの人がっ』

 アンヌが喋る前に念話が続々。
 話したいのはわかるんだが。
 しかし念話。内緒話が?
 ログ。早かったのはフェドラかな。
 聞こう。何かあった?

『なんか良くないかもー』

 ………………んっ?



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