黒鷲の旅団
29日目(18)罪があろうと石を投げよる

「こうかなっ? こうかしら?」
『アンヌちゃーん?』
『くっつき過ぎじゃねー?』
「何よぉ、役得役得っ♪」

 うん、役得でも何でも良いが。
 俺の右腕に絡みついて来るアンヌ。
 ちょっと歩き難いかな……

 何も気づいてないフリをして。
 アンヌと連れ歩きながら子供達と通信。
 怪しい講師さんについて報告を受ける。

 講師2人の内、不審がられている方。
 神人のパティシエ。パティさんだ。
 子供達が探りを入れられたと言っている。
 温厚なフェドラでさえ『良くない』と。

『今だ。離れた』
『あたしらの場合なんだけど』

 離れた隙に念話が来る。
 離れた、今はアルメル1人と話している?
 相互監視でも警戒しているのだろう。
 1人ずつ離して内密に質問しているらしい。

『変な事されてないかとかってさ』
『なー? 割とシツコイめに聞いて、さ』

 ツェンタとアイリスの言。
 こう、外部から疑いを掛けられる。
 対外政策を疎かにしているツケだな。

 男が女の子を連れ歩いて、何してるのか。
 それ自体はもっともな疑いである。
 公序良俗の保持。
 外部の目が入るぐらいの方が良い。
 こっそり来る前に受け入れたって良い。

 そして実際、やましい所は無いワケで。
 見たけりゃ見られて構う事は無い。

 しかし、都度都度と煩わされる。
 面倒と思う部分もあるな。

 バルビエ夫人もそんな口だった。
 あっちからもこっちからも調査調査。
 誰か仕切ってくれない物か。
 うちで責任持って監視しますとかって。

「何なんだい、あの女ぁ〜」

 通りかかったジュス姉さん。
 不満げなのは何か聞こえたかな。
 魔人の聴力だ。聞けば聞こえるのだろう。

 と、アンヌが俺に耳打ち。
 俺と大人の女達とはどうなのか。
 大人の女達に何か問題あるのかって?
 嫌な方向に話を振るなあ。

 誰を下げるだとか、和を乱す。
 その辺は釘刺した方が良いんだろうか。
 しかし俺が言っても疑いが深まるワケで。
 どう接触したモンかな。

「あちらが気になっているのだろう。
 私が行こうか。恐らく機関の人間だ」

 アウグストさんに声を掛けられた。

 機関、とは? 神人の連合みたいな物だと。
 NPCの権利が何とか機関。

 そんなモンがある、のは良いとして。
 いつから。俺が来る何年も前からだろう。

 何故、俺が助ける前に助けが来ないのか。
 死に瀕した子を何人も見て来た。
 その時、連中は何をしていた。
 手も貸さんと口だけ出そうというのか。

 と、不満がっても仕方が無い。
 NPC擁護なんて少数派だろう。
 人手か資産でも足りないか。
 お題目はともかく力不足だな。

 さておき、絵の生徒達は。
 自分でも描いてみなさいの時間か。
 それじゃあ、お願い出来ますか。

 アウグストさんがパティさんの方へ。
 俺は座って、手には鉛筆と紙。
 探っているのがバレない様にだ。
 スケッチの真似事でも……

 と、俺の前でポーズを取るアンヌ。
 描いても良いが、普通にしてくれ。
 複雑なポーズ。描き難い。
 セクシーポーズ。違う意味で同じく。

 さて、アウグストさんは何を話すかな。
 アンヌが中継してくれる。
 魔人の聴力から、聞いた話を念話に乗せて。

『パティ・パルフェ。機関の人間だな。
 雑な調査は止めて貰いたいのだが』

『あなた確か、組織の人ね?
 アウグスト・クラウスナー?』

 ……何だか見識があるみたいだが。
 組織? アウグストさんも何かの所属か。

『邪魔しないで頂戴。
 この場でハッキリさせてやるんだから』

『結論が先になっていないか。
 調査側の都合で尻尾を出すものか?
 拙速と思うが。黒と断ずる根拠は』

『解析した。子供に非処女が居る。
 自分でないなら売られたか何かよ』

 俺が誰を売った覚えも無いが。
 非処女。誰だ。ペトちゃんとか?
 俺と会う前の……っと。

「言いがかりじゃない!
 自分は助けに来ないくせに……!」

 アンヌが怒った顔で歩き始めて。
 待て。落ち着け。冷静に。
 腕を掴むが引き摺られる。

 ちょ、待っ……おわああ!



前へ黒鷲の旅団トップへ次へ