黒鷲の旅団
30日目(1)遠回りして帰ろうか
「ようこそ黒鷲様。
興味を持って頂けるとは光栄だ。
末長い付き合いを期待したいですな」
まあ……その辺は追々だな。
夜半過ぎ、首都。
ブラックマーケット最奥。
怪しげな酒場のカウンター席。
盗賊ギルドのメンバーと繋ぎを取った。
厳密には盗賊ギルドではなく。
ストライダー組合。技巧系ギルドの1つ。
しかし実態は野伏の知識を活かした窃盗団。
盗賊ギルドでも間違いではない様子。
出向いて来た男は幹部クラスらしい。
幹部を寄越す。有益と見てくれたか。
オウルと名乗るベテランそうな中年。
柔和な笑みの様で、眼光鋭い男。
偽名だろうが、深く詮索する気は無い。
こちらの用件は2つ。
1つは、かねてからの交渉事。
ギルドの手駒にされている浮浪児達。
特に傷病者を引き取りたい。
代金はそれなりに出せる。
先方から要望が幾つか。
要約すると、金は先払いで。
引き渡しは外部が良い。
目立つ大通りは避けたい。
提案。東区の酒場の裏手。
手紙でも添えて転がしておいてくれ。
夜が明けたら回収に向かおう。
代金は前金で1千万。金貨100枚。
これ1回で終わりとは言うまい。
「ははは、流石。羽振りが良い。
それでもう1つは。ダニ公か」
よくご存じと言いたいが、その上だ。
ダニエルの祖父、大ガーランド伯爵。
あいつを失脚させるのにネタが欲しい。
ダニエルが何をやっても釈放される。
あのジジイが。直接会った事は無いが。
後ろ盾がある限り、手を出すのも難しい。
まあ、すぐ本人をとは言わん。
周りから切り崩しても良い。
大ガーランド派の貴族集団を弱らせる。
孫の悪事を権力で揉み消す様な奴らだ。
他にも後ろ暗い事を幾つもしているだろう。
それを抑えて強請るか、捕縛とか。
「ふん……なるほど。
当たってみようと言いたい所だが。
正確な繋がりを知りたいな。
誰がガーランド派、ガーランド寄りか。
噂程度は聞くが、全容までは分からない」
それもそうだ。標的の情報が要る。
公主や女伯爵なら知っているだろう。
分かったらまた連絡する。
店を出ようとして……呼び止められる。
オウルが指を鳴らして。何かの合図。
マスターから高そうな酒。
あと裏手からお色気お姉さん達。
接待か。いや、時間も惜しいんだが。
無下にし過ぎても関係にヒビが入るか?
酒は一杯だけ貰って。うん、良い酒だ。
お姉さんズには金貨でも握らせて。
また今度、機会でもあったらね……
酒場を後にした俺は……うっぷ。
強い酒だった。後から効いて来た。
酔い。何か魔法。チラッと見た気が。
借りたままのシャンタルの手帳から。
……酩酊魔法。これだな。
酩酊魔法、反転。
派生。酔覚魔法キュアドランクネス。
魔法で強引に酔いを醒まして。
次に向かったのは憲兵隊詰め所。
待機していたのはディータとベアトリス。
何度か東門で見かけた顔だ。
サミュエル少年の殺人事件について。
凶器に使われた剣が見つかった。
鑑定からダニエルの物だと判明。
兄貴分グレアム以外にも目撃情報あり。
で、ダニエルは問責を受けた、が。
奴の言い分としては無礼討ちだと。
貴族に対して無礼をした平民を斬捨御免。
罪に問えない。力及ばずとベアトリス。
気に入らねぇよなとディータがぼやく。
ダニエルの反応は想定内。
罪を逃れるのも想定内だが。
それでも奴は犯行を認めたワケだ。
証拠と証言が出たのが良かったな。
憲兵隊は良い仕事をしたと思いたい。
完璧に意趣返しをするのなら。
ダニエルを平民に落とす。
落とした上で無礼討ちにする。
これはちょっと無理筋か。
祖父はともかく父親が清廉潔白だ。
爵位が一家全滅ともなるまい。
しかし祖父の影響力が無くなれば。
伯爵以上からの圧で罪に問える。
俺より下になれば仇討ちも容易だ。
あるいは、グレアムを養子に入れるか。
同じ伯爵クラスの子供にして貰う。
遡って弟のサミュエルも貴族の子とする。
誰か協力者を募って。
いや、本人に意思確認が先か。
いずれにせよ、大ガーランドから。
将を射んとする者は何とやら、だ。
この場合はどっちが将か分からんが。
ダニエルには報いを受けさせる。
幾ら遠回りになってでも。
さて、もう戻って眠らないと。
夜が明けたら……まずは葬儀だ。
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