黒鷲の旅団
30日目(5)献花と侮蔑

「じゃ、カゴごと買ったるわ」

 待って、公主。
 カゴ取られたら明日から困らんか。

 首都西区、神聖教会支部。
 葬儀と聞きつけたのだろう。
 花売りの子供が何人か来ている。
 献花の習慣。細やかだが稼ぎ時。

 公主様、気前良く買い占める。
 しかし花売り。カゴはカゴで商売道具だ。
 無くしたとかって怒られてもな。

「ああー、ごめんごめん。
 そこまで気付かなくて」

「い、いえ、そんな。全然っ」

 恐縮する少女ベルタ。一番年上らしい。
 ベルタ、イェッテ、ウラ。3人姉妹。
 ベルタの背丈がユッタやマリナぐらい。
 他2人はうちの年少組に近い印象。

 まあ、うん。困ったら頼っておくれ。
 騎士団でも教会でも、魔女協会でも。
 3人は少しはにかんだ笑顔。
 花を受け取り、見送って……

 見送っ……ダメだ。呼び止める。

 生きて行けてるなら、とも思ったが。
 直感のスキルが警鐘を鳴らした。
 このまま行かせてはマズい気がする。

 末っ子ウラの頬、汚れじゃない。
 腫れている。殴られた?
 誰にだ。父親か。
 稼ぎが悪いと子供達に当たるらしい。

 暴行罪、逮捕しなきゃと公主様。
 これに不安そうな顔をする子供達。

 戻ったら怒ってまた虐められる。
 半端に注意しても同じ事だが。

 あるいは子供らの方から情がある。
 あっても一度距離を取るべきと思うが。

「じゃあ罰金を肩代わりしてやるのは?
 暴行罪の罰金。こんなモン?」

 言いながら金を寄越す公主。一芝居か。
 恩を売って子供を預けさせる?

「そ。何ならその後こっちで預かるし。
 そっちで育ててくれても良いけど。
 潰せる胸くそは潰したいじゃん?」

 そこは概ね同意。
 後で憲兵やらと家庭訪問だな。

「何かあった? あー」

 ユッタが駆けて来て。
 早々にウラの頬を治してしまう。
 説明も何も要らんか。優しい。

 葬儀はもう始まる様だ。
 ユッタは俺を呼びに来たのか。
 後ろから行く。先に花持ってって。

 順番は子供達とバルビエ夫人。
 夫人が頼られて主催した、のテイ。
 俺や公主は賛同者として後から。

 後ろで順番を待ちながら。
 参列している貴族と挨拶を交わす。

「おお、黒鷲殿」
「いつもご苦労であるな」

 バルビエ夫人の後から2人。
 宰相ブランドナーと執政ヘイドルフ。
 この辺は公主側近。支持派。

「痛ましい事件が続く物だな。
 孤児だろうが心が痛む」

 ヴァイゲル伯爵。
 いつかの偽装孤児の1人の父親。
 中立だが俺には好意的。
 連れているのは別の息子か。

「貴殿の縁者だとか」
「お悔やみ申し上げる」

 ヘインズ男爵、ヴェルドーネ子爵。
 士官候補娘らの父。
 政争では日和見だが俺に借りがある。

「あ、ああああ、いやいやいや。
 変なつもりはありませんですうう」

 慌てているのはヘルモント男爵。
 叙勲式の裏で捕まえた変態。
 こいつは政争には興味無さげ。
 転写魔法で子供らの写真を撮ったか。
 不審だが脅威度の低いドM。
 子供達に近寄らない分には後回し。

 その、ヘルモントの向こう。
 参列するでもない様子の貴族が3人。
 会話を傍聴魔法で収音する。

「おお汚らわしい。亜人まで居るとは。
 ここまで臭って来そうだ」

「公主殿下の気まぐれかと思えば。
 バルビエ夫人にも困った物だ」

「ご令孫の言い分では反乱分子だと。
 手柄首の様な物ではないか。なあ」

 好き放題言っている。
 探知。解析。

 シュナーベル子爵。
 マクベイン子爵。
 バダンテール子爵。

 令孫とはダニエルだろう。
 敬って呼ぶ。大ガーランド派。
 偵察に来たか何か。

 ふと、そそくさと帰って行く。
 被探知にでも気付いたか。
 それとも公主の……違った。
 大司教ら教会側から咎める視線。
 葬儀は葬儀。嘲る物でない。

 ともあれ、まずはあの3人だな。
 後で盗賊ギルドに情報を流しておく。



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