黒鷲の旅団
30日目(6)洗濯日和、抱っこ日和

「あ、パパだよー」
「パパだ!」「ぱぱー!」

 葬儀を終えて自宅に戻る。
 出迎えたのは留守番チーム。
 リリヤとニア、カリマとニノン。
 フェドラの周りに居たのが駆けて来た。
 すっかりファミリーだ。

 はいはいはい、抱っこ抱っこ。
 順番な。順番……待って。おーい。
 いっぺんには無理だってばよ。
 カリマ、ナチュラルに背中を登らない。
 ニノンも真似しない。危ないから。

 一度に押し寄せて、抱え切れない。
 浮遊魔法。軽く浮かせる。
 放り上げるとフワフワ浮く。
 ケラケラ笑う子供達。
 幸せそうなのは何よりだ。
 差別など気にせず楽しく暮らして欲しい。

 留守番チーム……留守番。
 葬儀に行かなかった子達。

 神聖教会が怖い、嫌いという声は多い。
 亜人や半魔への蔑視を感じる。
 マイナさんを虐められた恨みがある等。
 すぐに埋まる様な溝ではない。

 フェドラ達は洗濯をしていた所かな。
 洗浄、乾燥魔法でもキレイにはなるが。
 天日干しの殺菌力には敵わない。
 魔女の授業でも教わる事らしい。
 たまにはお日様に当てなさい、だと。

 洗濯物を遠目に眺める。
 私服が多いのはエメリナかな。
 何か危険なシルエットもある……誰のだ。
 あまり詳しく見るのは止めとこう。

「あっ、何かしてる」

 俺に続いて戻って来たユッタ。
 後からレーネやヘルヴィ達。

 ユッタやレーネは葬儀に参加した。
 溝はあって、それでも参加した。
 行かないと負けたみたいになるから。
 負けん気が強いなあ。

「何人待ちですか?」
「20人ぐらいだよー」

 レーネの問いにフェドラ。
 え、何、いつの間に?
 抱っこの順番待ちが出来ている。
 レーネは少し迷った様で。
 しかし並ぶのか。むふむふ顔。

 順番抱っこしながら、後の予定の説明。
 この後はブラショヴに向かう。
 シュテルン女王と公主が会見するんだが。
 これに便乗して俺達も女王と謁見する。

 一方へ呼び付けずに双方から詰めた形。
 ヴィン兄さんへ威圧の意図もあろうけど。
 こちらとしてはブラショヴで良かった。
 女王の支配領域は神聖教会の影響が強い。

 人間史上主義の社会。
 言い換えれば亜人に差別的。
 亜人種や半魔を連れ歩き難い。

 ヴィン兄さんトコなら連れ歩ける……が。
 それでも絶対安全ではないんだ。
 勿論、矢避けの魔法も施すけれども。
 敵地でなくとも索敵警戒は怠らない様に。

 あと、新顔が3人居る。
 ベルタ、イェッテ、ウラの3人姉妹。
 部隊編入は長女のベルタのみ。
 下の子2人は侍女見習いとして雇用する。

 父親が……暴力親父で。
 しかし愛情はあるとかいう困った人物。
 酒さえ飲まなければ、みたいな奴だった。
 手放したくないとゴネて一悶着。

 妥協案として、住み込みの仕事とした。
 離縁でなくとも引き離す。
 別館、侍女宿舎にまだ空きがある。
 指導はベラさん達に任せたい。

 新人2名。武器はどうしたか。
 雪竜人ヴィルヴァが弓。
 半ゴルゴーンのニアがクロスボウ。

 ベルタはヘビ大丈夫?
 ニアと向き合って、少し戸惑ったが。

「痛い? それ、痛い?」
「もう塞がってるよ」

 戸惑いより労りが勝ったのかな。
 義指を心配してくれる。
 一先ず大丈夫そうかな。
 纏まって動いてみて貰う。

 ちょっと不満げフリスティナ。
 お前ちゃんも優しいのは分かるから。
 隊が違っても友達にはなれる。
 段々に慣らしたら良いだろう。

 弓兵1、弩兵1、と、もう1人。
 もう少し増員したかったが。
 盗賊ギルドからの傷病者は療養中。
 防疫の意味でもまだ様子見だ。
 小隊としての増設は明日以降かな。

 さあ、抱っこ終わ……らない。
 遠くからラケル達が走って来る。
 凄く嬉しそう。無下には出来ない。

 ええい、仕方が無い。

 抱っこ終わった子にお願い。
 ベルタにも旅の装いセット。
 あと武器を見繕って。軍馬もか。
 戻って来る頃には出発できるだろう。



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