黒鷲の旅団
30日目(7)縦2分割、横4分割?

「左翼警戒! 総員んん…………いや」

 元は第3公子、王弟。
 マクシミリアン将軍。
 号令を掛けようとして中止した。

 彼の視線の先でグリフィンが3頭墜落する。
 撃墜記録はイェンナ、カリマ、ノイエ。
 すいませんね、仕事を取っちゃって。

 ブラショヴではなく北のフェルディワラ。
 ここを起点にブラショヴへ向かう。
 女王の一行が行進する。
 女王の影響力は健在だと見せたい様子。

 中央に女王の馬車。
 周りには女王直属の重装騎士団。
 その前方がリュドミラ公女麾下の騎兵隊。
 出迎えと護衛、先導役を兼ねてだ。
 黒獅子隊、俺達黒鷲団も参加している。

 前方、街道脇にバンダースナッチ。
 マルカ、マリナ、フェドラの3連継矢。
 倒したが待て。自慢してから回収しよう。

 3人を先行させ、獲物の前で下馬。
 整列。女王達の方を振り返る。
 キュロットスカートの裾を摘まんでお辞儀。
 また隊列に戻して行軍、と。

 俺は獲物の回収に向かいつつ……反応は。

「ははは、亜人が気取ってやがる」
「イヌコロ倒したぐらいでなあ」

 そんなモンか。亜人蔑視。
 女王麾下の騎士団から笑い声だ。

 しかし、そんな嘲笑も一様でもない様で。
 マクシミリアン将軍が、側近かな。
 隣の騎士に振り返って言う。

「観測。距離は如何程か」
「300ヤードはありましたかと」

「ふん。2本ならマグレもあろうがな。
 女でなければ供回りに欲しい所だ。
 今笑った者らに同じ事を披露させる。
 出来ねば晩餐は抜きだと伝えよ」

 3連継矢は評価されている様子。
 武人らしく武芸が興味を引くか。

 しかし、女でなければ、か。
 女性蔑視、男系社会の感。

 まあ、そこを今は気にするまい。
 男系社会のエリート。男所帯だろう。
 飢えた獣の群れかも分からん。
 栄誉でも、うちの子達を預ける気は無い。
 断る手間が省けたという物だ。

「マクシミリアン将軍!
 女でなければとは何ですぅー!?」

 俺は気にしないが、誰だ。
 誰か将軍に突っかかっている。
 文官らしき服、下は短パン姿の女性。
 いつぞやの神人文官か。
 探知情報から名前はリスティニア。

「不平等反対! 雇用機会均等!
 もっと女性にも活躍する機会をですね!」

「平等! 平等だと!
 お前は男に因縁つけたいだけだろうが。
 女を選べば今度は侍らせてだ何だの」

「言いがかりです!
 女王陛下に訴えますよ!?」

「また姉上頼りか。この木っ端めが」

 仲が悪いなあ……
 同じ目的の下、協力とかしないのかな。

 近くに居ては居心地が悪い。
 哨戒の為と称して布陣を少し離す。

「やれやれだぜ。エリート騎士様だと。
 あまり感心しないよな」

 馬を寄せて来たのはヴァルター隊長。
 黒獅子隊も何か言われてますか。

 名目こそ男爵直属部隊とは言え。
 まだまだ装備も不揃いな元傭兵団。
 成り上がりだと侮られているらしい。

「うんうん、気に入らないよね」

 反対から寄って来たジュス姉さん。
 そちら身分どうこうは無いと思うが。
 勇者か。女王護衛の神人集団。

 昨日手傷を負わされた4人。
 更に加えて8人ばかり。
 女王を守れるだけの戦力。
 そこに居る事自体は不思議ではない。

 が、魔人さんズにしてみれば。
 瞬間的にでも対抗し得る戦力。
 しかも生き返る神人。
 ゾンビアタックして来る。
 厄介なばかりで面白く無い相手。

 連中は亜人種云々以前の問題。
 NPCを標的ぐらいにしか見ない。
 外交を理解しない奴も居る。
 ゲームだゴメンで済むと思っている奴も。
 俺だって、あんまり関わりたくない。

 人間と亜人。男と女。
 成り上がりとエリート。
 更に神人と唯人で。
 縦2分割、横4分割……八つ裂きかな。
 この状態でよく魔王と戦う物だと思う。

 俺達の目的は女王との接触。
 勇者連中からの攻撃について要請したい。
 魔人が居るからやっちまえ、では困る。
 情に訴えても何でも、抑制したい。

 つまり……女王だけだ。
 周りとは関わらなくて良い。
 到着時に労いの言葉でも貰って。
 ついでに少し話せれば充分。
 距離を置いて護衛の役目を果たそう。

 と思っていたら、トラブルか。
 女王達の馬車の行く手。
 隊商みたいなのが立ち往生している。

 各隊隊長。このまま陣形を維持。
 アレは俺が様子を見て来る。



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