黒鷲の旅団
30日目(8)黒鷲さんパーキング

「すいません、助かりました!
 もうダメかと思った……」

 隊商のリーダー、ヨゼフ氏。
 大袈裟な、でもないか。

 立ち往生していた隊商。
 馬車が泥濘に嵌って動けなくなっていた。
 浮遊魔法で馬車を撤去。
 加えて整地魔法で待機場所を用意した。
 女王一行が通るのを横でやり過ごして貰う。

 平民が貴族の行く手を阻んだ場合。
 怖い貴族相手だと不敬に問われる。
 で、最悪、打ち首とか。
 相手を知らなきゃビビるのも無理は無い。

 しかし……泥濘、なあ……

 追跡魔法。泥濘に魔法の痕跡あり。
 探知魔法。周辺に敵影無し。
 足止めからの襲撃は無さそう?
 単なる偶然、事故か?
 戦闘に水系魔法でも使ったとか。
 解析魔法。うちの子達由来ではない様だが。

 整地魔法で泥濘を埋める。
 女王一行の進行に支障は無い。

 無いが、女王の馬車が停止した。
 イーディス公主が並走。何か話している。

 見ていると……女王、降りるのか。
 公主もこちらに馬を向けて来る。
 急いだ様子で。え、何。

「ちょっ、あの、あれ!
 ツボ無い? ツボ。お便所お便所っ」

 ええええ、ちょっと待って。
 トイレ休憩だと。すぐ用意する。

 魔女協会に通信。携行トイレを手配。
 石柱やら錬成魔法で小屋を作る。
 マリナやルーシャが手伝ってくれる。
 広く作ろう。女王のドレスは裾が広い。
 アレで入るに普通の個室じゃ無理だ。

 どうにか小屋が出来る。
 女王と侍女達が駆け込んで行く。
 補助付き。大変だな、女王ドレス。

 などと見守っていて。
 もじもじと寄って来るカーチャ。
 お前もかい。へへへと笑う。
 仮設トイレを増やそう。
 お前ちゃんのは普通の個室で良いな。

「え? 何? 何で止まってんの?」
「何か、トイレ」「トイレ?」
「えええ、トイレ! あたしもトイレ!」
「うわあああ、俺もトイレ!」

 公主の近衛隊や騎士団女子。
 女王の護衛、勇者数名も走って来る。
 女子……男子も居るな。大か。
 男でもそこら辺で大は流石にな……

 漏らされても困る。トイレ増設。
 行列除けの待機場所だったのが。
 完全にパーキングエリアになったな。

 まあ、この、止まったのを幸いとしよう。
 足並みを揃える為、小休止。
 この機に女王と少し話をしたい。

 女王……まだ出て来ないか。
 カーチャはもう出て来たみたいだが。
 公主曰く、女王はお腹痛いのだと。
 何か薬盛られたとかじゃないだろうな。
 胃痛持ち? 胃が荒れがち?
 それはそれで心配だが。

 馬車でブラショヴへ。
 まだ1時間は掛かるだろうか。
 一息だ。一息つきながら周辺監視。
 外部の敵影……は、順次排除。
 ゴブリンやコボルドなど相手にならず。
 珍しくてバンダースナッチ。見知った相手。
 子供達、苦戦はしていない様に見える。

 新人。ニアとベルタはまだ不慣れ。
 レーネ達、先輩チームが面倒を見ている。
 多少レベルは上がっているか。
 上手いこと倒させて貰っている様子。

 ヴィルヴァの方は余裕か。
 元々、武芸に心得があるらしい。
 マリッタに腕力で劣り器用さでリード。
 撃墜数を競っている。

 敵への対応は良いとして。
 勇者側から何度か解析を受けている。
 興味を持たれるぐらいは仕方ないけどな。
 ジュス姉さんが時々顔をしかめて居る。

 解析以上のチョッカイは無いな?
 女王の手前、下手な真似もするまいが。
 遠巻きにニヤニヤ見ている奴は居る。
 あんまり近付かない様に。

 下手な真似……ああ、もう。何だ。
 カーチャとノイエ。絡まれている。
 騎馬の男数人に囲まれている。
 装備が不揃いなのは神人だな?

 装填、ゴム弾。転移魔法付与。
 2人と馬を強制的に手元に寄せる。

 カーチャ、どうした。
 女王の馬車を見に行ってた?
 近寄ってて気付いたら囲まれてた。
 敵対反応じゃないから油断したか?
 ノイエが助けに行って巻き添えに。

 ちと軽率だが、無礼は向こうかな。
 少なくとも紳士の振舞いじゃない。
 女王陛下に苦情を入れよう。



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