黒鷲の旅団
30日目(9)チンピラ勇者と心労女王

「じゃあさ、勝負しようぜ。
 俺が勝ったら」

 断る。子供達は賭けの景品じゃない。

 女王が出て来るのを待つ間。
 絡んで来る勇者達を躱す。面倒だな。

 うちの子達に目を付けた奴が5名。
 ちょっと貸せだのと言って絡んで来る。

「勝てばいいだけの話だろ?」

 レベル差がどれだけあると思っている。
 正面からでは勝てないし、旨味も無い。

「負けたら何でも言う事聞くからさー」

 要らん。お前の全てでも釣り合わん。
 大体、約束を守る保障がどこにある。

「分かった。負けるのが怖いん」

 そうだよ。それがどうした。
 俺のメンツより子供達の安全だ。

「じゃあ、もう、お前。
 弱いんだから言う事聞けよ」

 断る。お前達は山賊か何かか。
 弱かろうが譲れない物は譲れない。
 力ずくで来るなら全力で逃げるぞ。

「……もういいよ、つまんねえ奴」
「1人ぐらい貸せよなケチー」
「けっ、臆病者。ざーこざーこ」

 雑魚で結構。何とでも。

 下がって行く5人。
 実力行使しないだけ理知的か?
 いや、違うな。
 イーディス公主が寄って来ている。
 格上が来るから逃げただけだろう。

「あいつら何だって?
 頭クチャってやったろか?」

 クチャって、槍でか。
 神銀槍で突く真似をする。
 こっちから問題起こしてもマズイよ。

 子供達はと振り返れば。
 後ろに庇っていたカーチャとノイエ。
 揃ってブンむくれた顔。
 やっつけてやれなくてゴメンな?

「おじさんは悪くないよ」
「あいつらがクソなんだよう」

 ノイエまでクソとか言っちゃう。
 実際クソだとは思うけれども。

 女王は……と。
 どうやらトイレは済んだ様だが。
 椅子を用意させて座っている。
 顔色が悪い。診てみようか?
 お付きの侍女に診察の許可を貰いに行く。

「魔法で医者だあ? 怪しい怪しい!
 どうせ裸見たいとかでしょ! スケベ!」

 侍女より女文官殿に罵られた。
 男嫌いはもう勝手にしろとも思うが。
 こっちの女子は助けてくれんのになあ。
 露骨に非難するも首を傾げられた。
 将軍閣下との口論に夢中だったかね。

 と、将軍閣下。
 料理を下げさせる様な手振り。
 騎士が2人来て、文官殿を両脇から確保。
 そのまま引き摺って行ってしまった。

 将軍は俺の方を見てニヤリ。
 何か恩を売られている感があるなあ。

 気を取り直して、女王陛下を診察。
 脱ごうとしなくて良いです。
 症状は頭痛、胃痛、眩暈、不整脈。
 整脈、鎮痛魔法……
 胃痛にも整腸で効果あるか?
 あと眩暈がどうして良いか分からん。

 解析。診断結果を更に解析。
 低体温症由来。ちょっと失礼。
 女王の手に触れる。冷たい。
 活力、温癒魔法。

 女王……ポロポロ泣いちゃう。
 ちょっと。俺が泣かせたみたいに。
 優しくされて気が緩んだと女王だが。
 侍女さん達の顔が怖い。凄く怖い。

 問診。食が細いですか。
 胃が荒れて、食べられなくて。
 カロリー不足で体温も上がらない。

 胃痛を解析。これがどうも心因性で。
 国家元首にストレス無くせってもな……
 教育を受けて来たとは言え、新人。
 加えて国内国外とも安定せず。
 頼りの異世界勇者様も好き放題、と。

「お姫様?」「女王様」
「どっか悪いのー?」

 子供達が心配して見に来る。
 丁度良いか。集合、集合。

 女王陛下に挨拶する。
 あまり時間を取らせても悪い。
 各兵科第2小隊まで小隊ごと。

「あっ、あの、ユッタです。
 ユッタ・ハルストローム」

「レーネ・ロンネフェルトと申します。
 何卒よしなに」

 みんな硬いな。愛想良く。スマ〜イル。
 俺が笑って見せると子供達も笑う。
 女王も釣られて笑顔を向けてくれる。

 今回同行の目的の1つが、これだ。
 女王の記憶に『可愛い子供達』を残す。
 時に思い出し、気に掛けて欲しい。
 ストレス抱えている所に悪いけど。
 後で侍女さんらに整腸魔法を教えるか。

 勇者への苦情については、公主から。
 公主を女王の馬車へ乗せて貰う。
 残りの行程で親睦でも深めて下さい。

 さて、護衛の続きだが。
 こちらも鬱憤を晴らすぞ。
 各隊、雁行陣形。全開戦闘用意。



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