黒鷲の旅団
3日目(2)近衛隊への道
「悔しい……私……私、悔しいです!」
自宅に戻るや、ユッタ、怒り泣き。
サンドラが気の毒がって、よしよしする。
ユッタは近衛隊に入りたいと思っており。
公主様直属の精鋭部隊。
しかし先の悪ガキどもに馬鹿にされた。
亜人なんか近衛隊になれないと言われた。
そんな衝突もあって、揉めて。
終いに石を投げられたと。
ユッタとイェンナ、痣を治してやる。
殴り合った様だ。
女の子の顔に青痣。酷いなー。
「あ、あ、あたしは……別に……」
女の子扱いされて、イェンナが照れた。
慣れてないのか。可愛い可愛い。
照れ照れのイェンナと対照的。
ユッタが真剣な顔で聞く。
どうしたら亜人でも近衛隊になれるか?
例えば……そうだなあ。
亜人だ何だ以前に、精鋭部隊だろう。
関係無いぐらい強くなってしまうとか。
「強く……そ、それじゃあ!
お兄さん、私を鍛えてください!」
「ま、待て。待て待て待て!」
爺さんにとっては大事な孫娘。
危ない事させないでくれよと慌てるが。
ユッタは言っても聞かない様子。
こっち方面なら?とラティオを見せる。
「なるほど狙撃手か……それなら。
よ、よし。ちょっと待ってろ」
店に戻り、ユッタの小銃か。
ウィンチェスターを持って来た。
まずは実戦訓練と行こう。
冒険者の簡単な依頼でもこなしつつ。
他の子達はどうする。
やっぱりついて来たい?
一番に手を上げたのは……
意外にも、おっとりフェドラ。
「実は……お金、盗られちゃって……」
困った事に、フェドラ。
教会に隠して貯めていた金を盗まれた。
実に50万はあったという。
チマチマ貯金数年分。
根こそぎ持って行かれてしまったらしい。
目撃情報らしい物は上がっていない。
ただ、フェドラが金を持っている……
それを知って狙ったかどうか。
そうか。昨日のイェンナ。
俺の所持金を調べに来たのか?
そんな入ってなかっただろう。
「うん……疑って、ゴメンな?
え、えと……なっ、殴っても良いよ!」
ぐっと歯を食いしばるイェンナだが。
俺が治した顔をまた殴ってどうする。
確かにフェドラの貯金知っていた。
推理としては、なかなか現実的だ。
カードは返して寄越したし、咎めまい。
可能なら犯人を捜したいが……どうする。
探すだけなら分散だが、強敵か分からん。
纏まった方が組し易いかも知れない。
調査は仲間の孤児達も進めているらしい。
俺達は一先ず、鍛錬を兼ねた金稼ぎだな。
フェドラを放っておけないイェンナ。
借金のあるマリナも加える。
纏めて面倒を見る事にする。
爺さんが気を利かせてくれて。
ウィンチェスターをもう1丁。
ユッタの友達。力になりたい。
が、流石にここまでが限界か。
店の在庫がここまでだ。
2丁目のウィンチェスター。
これはイェンナに任せよう。
マリナとフェドラは、引き続き弓。
ドリスの店で狙撃スコープを買う。
ウィンチェスターに装備。
あと、準備できるものは……
サンドラがニヒヒと見せて来る本。
『2級魔女指南書』。
魔力が上がったので解禁されたとか。
俺も少し借りてみる。
魅了・幻覚魔法は阻害にも使えそう。
隠密魔法も役には立ちそうだ。
浮遊魔法は……試してみるしかないか。
酒場で数件、採集系の依頼を請ける。
事情を話すと子供達を励ましてくれた。
何か貰っていた様だが、何だろう。
オヤツか何かだろうか。
と、不意に通信が来て。
ロッシィじゃなくてグレッグか。
今どこに? ビニツィア?
ロシア西方から国境を越えた。
隣のウクライナも半ば。
夕刻にはルーマニアに入ると……早いな。
隊商の護衛を請け負ったらしい。
馬車に便乗している様だ。
子供の面倒を見る。
大人の手は多い方が良い。
可能なら手を借りたい所だ。
今は俺だけ。
せいぜい気を付けるしかない。
「おっちゃん、今の誰ー?」
「分かった。彼女さんだ」
「マジでマジで?」
「聞きたい! 詳しく聞きたーい!」
そういう面白い話じゃない。
相手は俺と同じおじさんだよ。
話もそこそこに、出撃しよう。
盗られた分を、遅れを追う。
取り返すのは簡単ではないとしても。
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