黒鷲の旅団
30日目(14)束の間の休養

「うん……なんかゴメン」

 いいんだ。気持ちは分かるよ。
 まだ休んでていいから。

 駐屯地に移動して休憩中。
 元気が無いジュス姉さんに声を掛けた。

 昨日の2連戦。竜に次いで勇者チーム。
 陣地が、自慢のクリエイト作品が蹂躙され。
 決して姉さんの落ち度ではないのだが。
 気を削がれてしまったのも分かる。

 武力衝突でも深手を負わされている。
 手傷が怖い。向かって行けない。

 怖さを知ってからが戦士の第一歩だが。
 姉さん、地が強いだけで戦士ではないか。
 無理強いはさせられないだろう。
 緊急時には動いて欲しいとも思うけれども。

「姉ちゃん、ナベがー」
「取っ手が取れちゃったんだよ」
「あ……あー、うん。やるやる」

 ティルアとツェンタが呼びに来て。
 壊れたナベの修繕か。
 ジュス姉さんは携行炉で鍛冶作業に。

 修繕……あれ、修繕魔法は。
 ああ、子供達も気を回したのか。
 何か役目をあげたいと思った様子。
 手を動かした方が気晴らしにもなろう。

 他に心配なのは、アンヌ……
 即席のベンチで仰向けに寝ている。

 多分、姉さんが頼りにならないと見て。
 2人分頑張ろうとか思ってしまった。
 気を張っていて疲れただろう。

 診察。微熱あり。冷癒魔法を。
 顔の前に手をかざすと掴まれた。
 起こしてしまったか?
 掴んでそのまま口に持って行かれた。
 こら。おやつじゃない。吸うな。
 むふふと笑う。悪戯なのか夢現か。

 まあ、お前ちゃんも休んでなさい。
 他の子達は大丈夫かな。

「あ、パパさん。あのね」

 調理コーナーでマリナやペトリナ。
 おやつタイム。おやつ作成中。
 トウモロコシを茹でている。
 あのね、は、何かあった?
 あれで良かったと言う。

 あれ、は、ジェーを縛って放置した件。
 去勢すると脅したが実行はしなかった。
 次また来る様ならホントにやるけど。

 マリナやペトリナは慎重派だ。
 こちらから手を出すのを危惧した様子。
 未遂に未遂で返して一安心。
 ただ、他の子にはやれば良かったとの声も。
 後でまた言い聞かせた方が良いかな。

 正しい方が勝てるという保証は無い。
 努力で差が埋まるという保証も無い。
 俺にも必殺の手段が無くも無いが。
 それは相手にだって言える事だ。
 どんな技を隠し持っているか分からん。
 力に力で挑むと博打になる。

 ましてや神人、異世界人の仕組みだ。
 死んでも生き返るチート持ち。
 そりゃあ俺だって生き返るけどな。
 生き返ってる間に誰が殺されるか。

 良い悪い、裁ける裁けないでなく。
 手出しすればリスクも増える。
 相手が悪かろうが、こちらに被害が出る。
 腕試しなど慎むべきだろう。
 身内を掛け金にされては、尚更。

「旦那、戻りやした」

 イェルマイン達が戻って来た。
 変身魔法を解いて偽物役と入れ替わる。

 首尾は。裏帳簿は手に入れた様だ。
 ただ、衛兵と交戦。
 殺してはいないが手傷を負わせたか。
 正体は知れてないだろうと言う。
 しかし何者かが忍び込んだのは知れた。

 元々、代官娘の手伝いで調査していた。
 疑いを向けて来る可能性がある。

 ここでイェルマインから公主へ連絡。
 勇者ジェーの付き纏いについて。
 捕縛して装備を剥がした。
 女王側から迎えを寄越して貰いたい。
 詳しくは後で報告する、と。
 向こうの事件の折、ここに居た事にする。

 その詳しい話。
 イェルマインは子供達から聞いておいて。
 後でホントに報告して貰う事になる。
 一部始終見ていたの体で。

 俺は裏帳簿を少し見せて貰って。
 解析魔法。検索……よし。
 今度は俺のアリバイ工作だ。

 ロジェに変身魔法。ラティオを貸す。
 俺の姿になっておいて貰う。
 狙撃銃を慣らしておいて良かった。
 街道の魔物でも減らしていてくれ。

 裏帳簿の内容に検索を掛けた結果だ。
 俺のターゲットと繋がりがある。
 葬儀で見たバダンテール子爵。
 こいつと帳簿の主で取引があった。
 ちょっと探りを入れて来よう。



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