黒鷲の旅団
30日目(19)消毒しました?

「うっわ、塩素くさっ!
 おおーい、生きてるー?」

 何とかな……3回ほど死んだけど。

 俺は崩れた地下室で瓦礫に埋まっていた。
 周囲にジェーやディガー達は居ない。
 上に居るのはイーディス公主。
 崩れた天井の穴から声がする。

 ジェー達に追われ、地下室に逃げ込んで。
 閉じ込められたのを逆手に取った。
 強酸と強塩基の魔法を多重展開。
 化学反応だ。大量の塩素ガスが生まれた。
 毒というか汚物どもを消毒というか。
 俺も奴らも吸い込んでダウン。

 異世界人、神人は生き返るのだが。
 生き返った場所にガスがある。
 出口は塞がれて出られない。
 生き返っても少ししたら死ぬ。

 それで連中は……救済策か。
 こう詰んだ時の脱出手段。
 別の場所に転移して生き返る事が出来る。
 代償に金や装備を一部ドロップしてだ。
 ドロップが嫌で少し粘った様だが。
 とうとう諦め、全員転移して行った。

 連中が居なくなったのを確認して。
 俺は生き返るや天井を爆破。
 塩素ガスが抜けて行く、が。
 俺も瓦礫に埋まって動けない。

 転移したいが……魔力切れだな。
 魔法の配分を誤っただろうか。
 腕が抜けないので魔力薬も飲めない。
 公主達の救援を待つ。

「1・6で勝つとか。なかなか」

 迎えに来たのは勇者……勇者だよな?
 ジェーの仲間ではない、が。
 昨日姉さんらと戦ったのとも別だ。

 剣聖クロサキ。東洋系の黒髪。
 魔法剣士キャサリン。金髪の娘。

 勝ったと言ってもほぼ相討ちだが。
 戦闘ログの記録上は俺の15勝。
 奴ら6人で累計15回死んでいる。
 俺に負け記録無し。
 自爆はノーカウントらしい。

「啓人さんとどっちが強いでしょう」
「どうかな。試そうとか思わないけど」
「えー、試しましょうよぉ」
「ケイトは自重しろ」

 うん? お互いをケイトと呼ぶ。
 何かの暗号だろうか。

 まあ、今はそれより確認しないとだ。
 通信魔法をアンヌへ。状況だが。

『当たりよ! コドレア!
 襲撃されてるわ!』

 案の定か。ジェー達の八つ当たり。
 コドレア駐屯地が荒らされている。

 この辺は対策済みだ。
 子供達はトゥルチャに移した後。

 アンヌは駐屯地の外だな?
 村の方から様子を窺っていると。
 無理に手出ししなくて良い。
 気が済むまでやらせておけ。

 被害状況は後で金に換算する。
 損害賠償を請求しよう。
 比較として、俺の屋敷で4千万だ。
 城砦全損なら1億は下るまいよ。

「あ、あのっ!」
「ちょっちょっちょ待っ!」

 慌てて寄って来る2人。
 女王陛下と女文官。
 どうされました?

 聞けばシュテルン公国軍。
『勇者法』なる物が存在するらしく。
 勇者は魔王と戦う義務を負う。
 代わりに必要な物は国が揃える。

 勇者の活動に必要な物……
 犯罪行為の賠償まで含まれる?
 漁られたタンスの中身の補填とか。

 こんな揉め事で億単位の出費。
 出せなくなくても痛いは痛い。

 法解釈で何とかなりませんか。
 奴らの勇者権を剥奪するとか。

「姉上、国防の7条2項」
「あ。外交関係に著しく。リル」
「承知です! 総員傾注ー!」

 ヴィン兄さんが助け舟を出して。
 女王、ディガー一党の拘束を承認。
 頷いた女文官が勇者達を集める。
 残ってる勇者。クロサキ達。
 あと昨日戦った奴ら4人。
 イーディス公主らと討伐隊を組む。

 俺の加勢は要らないかな。
 俺の要請ではなく国家の判断だ。
 この上、余計に刺激するまい。

 アンヌは援護を……んん?
 こっちに来るという。

 公主と俺のセットなら来なかった。
 公主が勇者討伐に出てしまう。
 残るのが俺1人。
 言い包められないか心配だと。
 情に絆されないか、とか。

 信用して、と言いたい所だが……
 居てくれた方が楽なのも確かだなあ。

 じゃあ、合流を少し待って。
 もう来てる? 帰還スクロール。
 門の方から走って来るのが見えた。

 それでは女王陛下。
 少しお時間を頂きましょう。



前へ黒鷲の旅団トップへ次へ