黒鷲の旅団
30日目(20)勇者法改正案

「なあに? 代わりに座りたいの?」
「そ、そうではありませんが」
「じゃあ良いじゃない」
「う、ううーん……迷惑では」

 あ、ああ、いや。これで良いです。

 女王との会談の場。
 アンヌが選んだ座席。
 それが俺の膝の上だった。

 女王困惑。狼狽える女文官。
 苦笑しているマクシミリアン将軍。
 リュドミラも口をパクパク。

 アンヌの意図は分かる。牽制だ。
 嫁なら間に合ってるとかそういう。
 実際、その牽制は助かる。

 それは良いけど、こちら向き。
 抱きつく様な恰好。
 前向かんのかい、前。
 ほれ。話をするよー。

 向きを変える様にアンヌを促す。
 と、少し、ぷうと頬を膨らませて。
 しかしすぐ笑って従うアンヌ。
 はいはい、可愛い可愛い。

 さて、こちらの要件だが……

 勇者連中から被った迷惑の数々。
 竜への刺激、村民の死傷。
 駐屯地、防壁への破壊活動。
 コドレア周辺の被害は目に余る。

 その補填や懲罰、再犯の抑制。
 諸々と言いたい事があるが、総合して。

 まず、勇者法とやらを改定しませんか。

 女王の国是。魔王に対抗する国を作る。
 勇者の集う国なら連中は国の顔だ。

 それが何ですか、あのザマは。
 女の子と見るやタカって来る。
 まるでサカりのついた中学生だ。

 雅に振る舞えとまで言わない。
 最低限度の社会常識は欲しい。
 アレは『言わなくても分かって』ない。
 資質を問う、テストすべきだと思う。
 基準を満たさないならクビにすべき。
 採用制度の見直し、が1つ。

 特権が奴らを増長させていると思う。
 異世界勇者に与えられる特権。
 それを『魔王との戦いにおいて』と。
『緊急に魔王に向かう限り』とする。

 平時など基本給だけで十分だろう。
 上位でも兵隊として雇用契約する。
 契約上の統制には従って貰う。
『俺達は勝手にやら』せない。

 最低限度、囲うだけ面倒は見るが。
 それ以上の贅沢は自費でやれ。
 金が欲しけりゃ働きなさい、とする。
 クラフト趣味、マッタリ勢も居るだろう。
 全員全部全面支援する事は無い。

 免罪は無し。犯罪は犯罪。
 特権を笠に着た乱暴狼藉を許さず。
 弱い者虐めが『勇』を騙るな、だ。
 この、特権の見直しが1つ。

 条件を厳しく強化したとして。
 どうせ聞かない奴は聞かないだろう。
 ルールに強制力を持たせる武力が要る。
 勇者督戦隊だか勇者審問官だか。
 勇者監視チームの設立が1つ。

 これらの案件を導入して頂けるなら。
 被害請求は当の勇者達に向けます。

「姉上、悪い話ではないと思うが。
 指揮下に置けるのは願ったりだ」

「領民に被害が出ているんだ。
 乱暴勇者達の抑制は必要だよ」

 マクシミリアン将軍。
 次いでヴィンフリード。
 リュドミラもうんうんと頷いて。
 しかし女王と女文官は難しい顔。

「此度については、請求だけ勇者達に。
 そういう訳には参りませんか」

 心配事は勇者の反発。
 圧倒的武力で反乱を起こされたら怖い。

 しかし、このままでも同じでは。
 言う事を聞かない。
 負担を掛ける。
 心身を蝕んで来る。

 勇者監視部隊の編成後でなら?
 使えそうな奴らに先に声を掛ける。
 準備を整えてから切り出しては。

 すぐにとは申しません。
 まずは検討して頂きたく。
 請求については待てます。
 市民の反発の方はどうにもだが。

「分かりました。会議に掛けます。
 それと、内密な相談が……」

「おーにーいっ♪ 帰ろっ♪」

 詰めて来る女王を遮って。
 アンヌが俺の首に手を回して来る。
 ああー、分かった分かった。

 相談ならまずイーディス公主に。
 彼女の方が権限もあります。
 女同士の方が話し易いでしょう。

 その上で俺が必要なら。
 公主も連絡をくれるでしょうし。
 何なら明るい内にでも使いを下さい。

 まだ話したそうな女王だが。
 また会えますよと切り上げる。
 リュドミラと女文官に魔法伝授。
 温癒魔法と冷癒魔法。
 上手く使ってやって。

 会見の場を離れ……小走り。

 今、何か、篭絡の気配があった。
 組織的か個人的にか知らんが。
 女王自らとは恐ろしい。

「どう、役に立ったでしょ」

 ケラケラ笑うアンヌ。
 俺1人だったら危なかったかもな。

 さ、帰ろう帰ろう。
 美人女王よりうちの子達だ。
 早く帰って顔が見たい。



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