黒鷲の旅団
30日目(21)ラケル、どーん
「あっ、イチャイチャ。ずるい」
「ティルア、こっちこっち」
「ぱああー! どーん!」
ちょ、おま、ぐふぉっ!
屋敷に戻り、玄関先。
俺はラケルの突撃に引っ繰り返った。
活躍のご褒美を要求したアンヌ。
俺は右腕側に彼女を抱き上げて帰宅。
見かけたティルアが抗議。
アンヌは逆側に彼女を導いて。
飛び乗って来るティルア。
手が塞がった所にラケルだった。
頭から突進。実質、頭突き。
無防備なミゾオチに頭突きだ。
飽和攻撃は勘弁してくれ。
耐性系スキルに経験値が入るわ。
「ぱあー! ぱあーああ」
ぐりぐりぐりぐり。
頭を腹に捻じ込んで来る。
分かった。分かったから。
アンヌを降ろしてラケルを撫でる。
よしよしよし……おや。
ラケルは撫でる内に寝てしまった。
起きてる間に構って欲しかったのか。
幼児退行した元奴隷少女。
連れ歩けないから接点が少ない。
構われ足りなかったかな。
とにかくラケルを部屋に運ぼう。
ティルアに先導を頼む。
途中、ドアの開いた部屋があって。
ユッタの部屋か。賑やかだ。
イェンナ、ジェマ、サンドラ。
ペトリナとツェンタ、カーチャもか。
寝間着姿で集まって談笑。
パジャマパーティーかな?
「宿題だよー。魔女協会の宿題」
「調合。薬作ってんの」
「ハーブは臭いが苦手にゃあ」
「で、でも、見分けるの上手いしっ」
「毒があるのはピリピリ臭いにゃ」
苦手分野を補い合ってるのか。
宿題に困ってるのはジェマ?
ではなくイェンナとカーチャで。
ジェマは薬草嫌いだけど得意らしい。
「あ、居た。シチュー温めたよ」
マリナが俺を探しに来た。
助かるよ。手間かけて悪いな。
晩餐頂く前に帰って来てしまった。
通信魔法で軽食を依頼していた。
「あー、私ももらおかな」
「ごはんー」
ペトリナとツェンタも付いて来る。
ちょっとにしときなよ?
あと、先にラケルを置いて来ないと。
「ぎゃははは」
「ちょっとー」
「ごめんごめんて」
振り返ればお喋りも始まっていて。
宿題は集まる口実だったかも知れない。
内情はパジャマパーティー半分。
レーネは誘わなかったかな。
ペトリナはいつも一緒かと思ったら。
「レーネちゃんパジャマ持ってないの」
「裸で寝てんだよー」
そ、そう……気を付けよう。
夜に尋ねたりしない様にしないと。
『うおーいぃ?
勝手に帰ったわねー?』
不意に公主から通信が来た。
すまんけど今日は終わりだろう。
勇者捕まえてて遅くなったし。
会議自体は明日改めてでは。
『まー、そうなんだけど。
聞いた? 女王ちゃんの悩み』
ホントに悩みはあったのか。
何だか怖いから逃げてしまったが。
『あっはは。狙われてるな?
気に入られたモンねー。
そこら辺にも絡むのよ』
俺が何か絡む?
女王陛下の男運の無さとか?
『ぶっは! 違う違う。
未だ女王陛下が独身な件について』
ん、あれ、そう言えばそうだな。
文明が中世相当。結婚が早い。
ヴィン兄さんでも行き遅れ扱い。
の、姉……が未婚。
政略結婚の1つも無い?
話だけでも聞こうか。
いや、その前に。
ラケルを置いて来てからだな。
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