黒鷲の旅団
30日目(22)女王様調査報告
『じゃねー。よっろしくー』
軽いノリで通信を切る公主。
ああ、まあ……はい。
あんまりよろしくないけど。
自室に戻った俺は情報を纏める。
公主から貰った女王の情報だ。
昼間、馬車に同席して聞いて来たという。
シュテルンの現女王。
元は第1公女アーデルハイト。
彼女が中世基準だが行き遅れている件。
イーディス公主から概要を聞いた。
ある程度、彼女の想像も含まれるが。
戦乱の続く時勢。
貴族社会の繋がり。
そこへ来て第1子の女子だ。
政略結婚の話ぐらいあった。
政略結婚。貴族家や国家間。
繋がりを強くする。
それも絶対的ではなかろうが。
一手段として選択肢に入る。
しかし父親、故シュテルン公王。
これらを全て蹴っている。
アーデルハイト自身は政務志望。
結婚より政略に関わりたかった。
余程勉学にも努めたのだろう。
事実として彼女は優秀だった。
……優秀過ぎた、かな。
公王は彼女を手放すのを躊躇った。
有用だとかプラスの話ではない。
その手腕を得て反乱されたら怖い。
せめて夫になる男には忠誠を求める。
かつ、公王家に籍を置く。
相応の身分でなければならない。
身分を与えるには家柄か。
手柄でも立てさせ爵位を与えるか。
家柄のある物は忠義が疑わしい。
何しろ乱世である。
実家の為に公王家を裏切りかねない。
忠臣に手柄を立てさせる。
これが魔王軍侵攻の前に頓挫。
剣が届かないどころじゃない。
ボロボロ負ける。死ぬ。
愛だ気合だでレベル差は埋まらない。
で、相手に恵まれず。
ズルズルと未婚状態。
ここまでは状況説明として。
以下、イーディス公主の想像も含む。
公王はアーデルさんを疎んでいて。
アーデルさんは公王を愛していた?
愛、は分からんが。
少なくとも認められたかった。
認めて貰えていなかった。
そこはまあ想像がつく。
公王は何か、引き金を引いた。
例の和平交渉の時か。
要らん事をポロっと言った。
実際、何を言ったか……
イーディス公主に聞こえた範囲では。
公王からの公主評。
若く才がある。見栄えも良い。
あまつさえには、嫁に欲しいなどと。
第5妃に? あのじゃじゃ馬を。
いや、単に世辞かも知れんが。
アーデルさんは面白くない。
自分は女だから認められず。
他所の若い女は嫁に欲しい。
愛憎渦巻きプラマイで憎たらしく。
それで会議脱出の際のアレか。
突き放して見捨てたとかって。
しかし元々、男系国家だ。
急な女王就任に反発もある。
女王の悩み……相談。
相談相手が欲しい、のが相談だと。
元々、知略型。周到なタイプだ。
逆に言えばアドリブに弱い。
一生に一度レベルの感情の爆発。
根回しも何も出来ていない。
派閥幹部。女文官リル・リスティニア。
女王に同情的だが視野が狭い。
実弟、将軍マクシミリアン。
姉に敬意がある一方で野心家。
それぞれ野放しに出来ない。
こう、側近に不安もある。
そこに来て、未婚の件。
悪い虫も寄って来ている。
女性統治者に反発する奴ら。
女王と縁談、結婚からの王座狙いとか。
彼女を政務から遠ざけようと画策。
一部勇者からも求婚されている。
行き遅れっても中世基準だ。
まだ若い。美人と言えば美人。
しかし連中は政治が分かってない。
そんな虫どもを躱しながら。
ワガママ勇者の面倒を見ながら。
内政やら外交やら気を回しながら。
頭を悩ませて、お腹も痛くなって。
こう、色々と気苦労も多い中。
何の気無しに助力したのが悪いのか。
俺も軽率だったかな。
何か期待されてしまっている。
流石に求婚とかはあるまいが。
協力? 協力……うーん……
今の女王派閥は不安定。
かつ勇者の国、神聖教会寄り。
亜人の子供達を守るには不足もある。
気軽に参画するのは無理だ。
亜人擁護を切り出す力はあるまい。
女王糾弾の理由にもなり得る。
しかし……盤石になったなら。
将来を見越して貸しを作るべきか?
まあ、助言ぐらいなら、かなあ。
一旦、思索を切り上げる。
もう1つ仕事が残ってるな。
一息つこうとカップを手に取る。
口に運びながら疑問。
コーヒーなんて持って来てたか?
「あっ、ちょ、ちょちょちょ!」
んっ、うわ、ごめん!
コーヒーじゃなかった。
妖精ちゃんのお風呂だった。
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