黒鷲の旅団
30日目(23)事件
「えへへー、逆にビックリだよう。
ドッキリさせようと思ったのにっ」
コーヒーでなくトゥーリカ入りカップ。
どうも、わざと見られる所に居た様だ。
自分でハプニングを起こしに来ている。
確認を怠った俺も悪かったが。
衝立か何か使っ……
無いか、衝立。妖精サイズ。
今度コロボックルさんに相談しよう。
生産系に強いと言っていたし。
「えー、いいよお。
ご主人様になら見られても」
お前ちゃんは少し恥じらいなさい。
でれでれトゥーリカを寝かしつけ。
俺は残りの仕事を片付けに向かう。
バダンテール子爵に宛てた手紙。
内容で呼び出しを掛けている。
呼び出し先は東下層区の外れ。
来るかどうかの時点で微妙。
悪戯と思って取り合わんかも知れん。
来てもすぐ帰ったかも知れん。
知れんが……一応見に行きたい。
治安のよろしくない所だ。
まさか単独でも来るまいが。
大丈夫か。何かあったとしたら。
誘導した手前、責任が無くもない。
あと直感スキルが何か反応している。
何に反応しているか分からんけど。
居なきゃ居ないでよし。
居たら。ハッタリでも仕掛けるか。
奴隷やら違法取引の件。
既に証拠は掴んでいるとか言う。
お嬢様にも告げ口しますよ、なんて。
それで嫌がってくれるか分からんけど。
ガーランド派から距離を取らせるとか。
そんな事を考えつつ屋敷の外へ。
ポータルからブカレスト東区へ。
途中、ブラックマーケット入り口付近。
ミラベル婆さんの露店があった。
小物は無いか。妖精用の小物。
妖精用じゃないが人形用がある。
小洒落た家具やらを少し買う。
「ほおう、アンティークか。
店主、これを貰おう」
声に振り返ればガーランド子爵。
不良冒険者ダニエルの品行方正な父。
妙な所で会いましたな。
アンティークは娘への土産。
ただ、これが目当てでなく。
素行が悪い息子の捜索中だと。
お供は……居るのか。
屈強な近衛兵っぽいのが3人。
俺がついて回る必要は無さそう。
あの息子は俺も探してみるが。
声を掛けても聞くとは思えん。
何してたかぐらい知らせようかな。
さて、バダンテールは居るだろうか。
婆さんは見てない? 見てないか。
知ってる顔を順に当たってみる。
銃器の店のバルタザール。
目撃情報は得られず。
弾薬パックだけ幾らか補充。
闇商人ダルテリオの露店。空振り。
お隣さんにも聞く。見てないかー。
次は、盗賊ギルド拠点の酒場。
酒場……へ向かう途中。
何だ。裏通りの方で騒ぎが。
「殺しだ!」「泥棒!」
「1人逃げたぞ!」
「医者だ! ヒーラー呼べ!」
人だかりの隙間から見てみる。
倒れているのはバダンテール。
当たりだ。嫌な当たりだが。
それと、取り押さえられた男が1人。
気になるが、こいつは後だ。
誰かが医者と言った。
バダンテールにまだ息がある。
止血と縫合、造血魔法。
「ごほっごほっ!」
咳き込む。血を吐いているが。
バダンテールを診察。
スキルが処置済みと言っている。
魔法は効いたとみて良いか?
取り押さえられた男は。
顔を見る。見覚えがある。
バレリオ。元冒険者。
バート隊のチビ達を誘拐した1人。
奴隷に落とすも行方不明になって。
逃がした奴が大ガーランド。
多分ダニエルの手下になっていた。
右手と、腹の辺りも血だらけ。
一見すれば刺した返り血だが。
こいつには奴隷紋が残っている。
俺の命令はまだ有効だろう。
こいつは自発的に犯罪が出来ない。
「ち、違う。そいつじゃない」
俺の腕を掴むバダンテール子爵。
分かってる。落ち着いて。
ダニエルが何かトリックを使った。
内容は大体、想像がつくが……
正気か。大事な祖父の仲間だろう。
あの男、何を考えての犯行だ?
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