黒鷲の旅団
3日目(6)勇者の資質
ぐう……しくじった。胃が痛い。
先ほど飲んだアルコールのダメージがある。
解毒魔法で分解したつもりだったのだが。
刺激物は刺激物だった様だ。
胃腸にダメージ。地味に横腹が痛い。
終いには、水路の脇で吐いた。
せめて水魔法で流しておく。
くそう、カッコ悪いなぁ……
「だ、大丈夫〜?」
気が付くと、通りすがりのフェドラ。
背中をさすって来る。
ちょ、待って。揺すらないで。
うう……もう1回吐いてしまった。
「あ、わ……ご、ごめんねー?」
いや、お前さんのせいじゃない。
変な冒険するんじゃなかった。
胃薬を買いたい、が。
ドリスの道具屋には無かった。
「ごめんねー。
普段は魔女協会から売りに来るんだけど。
今は取り置きが無いのよー」
という事で、こちらから出向いてみる。
魔女協会受付。
胃が痛いので薬が欲しいと告げる。
「いらっしゃいませ。
ご依頼の方ですね〜」
「医療担当はフレスヴェーナ派。
美人揃いですよ〜」
何やら歓迎されている。お客様扱い。
なるほど、外来の患者も収入源。
フレスヴェーナ派。フレスさん一派。
知ってる顔でも居るだろうか。
「いよーぅ、えーと、ハインリヒさん。
サンドラちゃんがお世話になってるね。
どもども」
上級魔女シャンタル。
魔法医療師だそうで。
今日は胃の具合が悪い。
胃薬とか無いかなーと。
実はウォッカに解毒魔法掛けて。
そのまま一気飲みしまして。
「ぶはっ! 痛いだけで酔わない奴じゃん。
おもしれー。なになに? 話聞かせてよ」
経緯について話した所。
シャンタル先生、笑う笑う。
「じゃ、あと3人どっかで吐いてんだね。
ウケる。超ウケる。
男が見栄の張り合い。バカだねー」
一頻り笑われて。まぁ、そうだな……
我ながら何やってんだという話だが。
「でも、そうか……
気に入らないが、剣は抜かない。
キミは魂の深淵に善なる光を灯している。
サンドラが出会ったのがキミで良かった。
私らの求める勇者様。
それはキミみたいなのかも知れない」
何だか大袈裟に褒められてしまった。
勇者なんてガラじゃないんだがな……
改めて、簡単な触診と問診。
酔いは大丈夫。吐いた。胃が痛い等々。
診断して貰う。
その最中、診察スキルが習得可能になった。
症状・異常を感知、分析するらしい。
便利そうなので、俺も覚えておこう。
「そんじゃ、魔女協会の診療所。
またのお越しを〜♪」
胃薬を頂いて魔女協会を出る。
薬は良く効いた。今後も頼らせて貰おう。
次は道具屋に戻る。
さっき買い忘れた矢弾の補充。
「ふふっ、また来た♪」
ドリスさん、楽しげ。
何度も邪魔して悪いな。
ふと見るとユッタの姿。
手を振って来る。
貰ってばかりでは悪いから?
弾薬を買いに来ていた様だ。
お金の使い方を教える意味もある。
幾らか任せてみるか。
魔力薬と、革細工セットも買う。
と、ドリス店長。
革製品ならお勧めの店があると。
友人カーラの仕立屋……あ、隣なのか。
仕立屋カーラ。
ドリスと同じ年頃の、若い店主。
若くして店を持つ……継ぐ。
それも神人の戦争由来か。
そう思うと安易には聞けないな。
革製品、レザーコートを購入。装備する。
解析魔法と鑑定スキル。
パラメータ的にも防御力が上がる。
造りがしっかりしている。
と褒めたら、照れるカーラさん。
委託せず、全て自作しているらしい。
仕立屋には、まだ居たフェドラ。
後から合流したマリナ。
そうだ、フェドラがボロ着のまま。
金も出来たし、何か服を買ってやりたい。
同時、マリナの靴に穴が開いている。
が、買い替えず、糸を買って修理?
しっかりした子だ。俺も見習わないと。
フェドラに服……服より靴が欲しい?
壊れ気味のサンダルだった。裸足も同然。
じゃあ、靴を買う。
あと、俺の着ていたチュニックを譲ろう。
端切れにして穴を塞ぐ材料に……
と、思ったのだが。
フェドラ、そのまま試着。
ボロ着をスポーンと脱いで。
チュニックをスパッと着た。
思い切りが良過ぎて止める暇が無かった。
「あっ……えへ、えへへへー」
男の目があるのを思い出したか。照れ照れ。
ホント気を付けてくれよ?
自分の魅力に無自覚で困る。
サイズは……合わない様だが。
マリナが余った部分を縛る。
フェドラの体形に合わせる。
マリナの母、娼婦のベラさん。
昼間は針子の仕事をしているらしい。
マリナは母親を見ていて覚えたのだと。
手が荒れがちなイェンナにはグラブを。
裁縫セットも置いているので俺用に買う。
良い装備を手に入れた。
同時に、また金が無くなって行く。
度々、武器を破損して実感した。
予備武器だって、1つ2つじゃ足りない。
もっと種類があっても良い。
当面は繰り返しだな。
稼いでは使っての繰り返し。
「おっちゃん! 証人が出たぞ!」
店を出るとイェンナが走って来て……証人?
前へ
/黒鷲の旅団トップへ
/次へ
|