黒鷲の旅団
3日目(7)オカネハドコダ

「じゃあ、私はユッタちゃん探すね。
 待っててって言って来るから」

 マリナは先に酒場へ。
 俺とイェンナ、フェドラ。
 3人で下層区の教会へ向かう。

「エリック、連れて来たぞー」
「あ、配達に来てた人じゃん」
「この人じゃないよねー?」
「ちげーよ、犯人は3人組だよ」

 フェドラの貯金が盗まれた件。
 有力な証言が出た。
 目撃者、エリック少年。
 俺の他に、冒険者3人組が来訪したと。
 廃れた下層区の教会だ。
 他に客らしい客は来ていない。

 その3人の内訳は。
 剣士と盗賊の男、魔法使いの女。
 人相も目立った所は無く、特定は難しいな。

 間違いなく、そいつらが取っただろうか。
 一応確認だが、内部犯の可能性は?
 他に、お金に困ってる子は居ないか。

「みんな困ってるよ」「ご飯少ないの」
「フェドラ家買わなくちゃいけないのに」
「ノイエだって待ってるんだぞー」

 フェドラの自宅購入希望。
 これは他の孤児達にとっても夢らしい。
 孤児だって頑張れば、という。
 何か成し遂げる所を見たい。

 それと、ノイエという子。
 こちらも半分堕天使だと。
 フェドラと同じ様な事情。
 神聖教会から睨まれている。
 家を買ったら一緒に住まわせて欲しい。
 そんな期待もある様だ。

 結束が強く、不審な挙動も見受けられない。
 子供達の中に犯人は居ないと思われる。

「皆さ〜ん、ご飯ですよ〜!
 今日は久しぶりにシチューを作りました!」

 シスター・メアリが呼びに来て。
 にわかに子供達が元気になる。
 久しぶりのご馳走の様だが。
 寄付でもあったのか?

「夕方になって、50万!
 凄いでしょう? 講堂に置いてあったの!
 きっと神様のお恵みですわ!」

 50万……いや、ちょっと待て。
 イェンナが眉を吊り上げて赤くなり。
 対照的にフェドラは青ざめる。

「ご、ごめんね……今、食べたくない」

 俺は泣きそうな顔のフェドラの手を引いて。
 への字口のイェンナと教会を出る。
 察したノイエ、友人カーチャもついて来た。

 みんな遠からぬ事を考えただろう。

 盗んだ犯人が、どういうワケか返しに来た。
 が、元の場所に戻さなかった。
 フェドラの金と知らないシスターが発見。
 教会の金にしてしまったのだ。

 幸いマネーカードの金は無事なのだが。
 それまでに苦労して貯めた金。
 貯えを全部失ってしまった。
 心中穏やかではあるまい。

「抗議しよう! 返して貰おうよ!」
「もう遅いよ……仕方ないよー……」

 トゥーリカの進言。
 フェドラは首を横に振った。

 下層区のボロ教会だって、経営が厳しい。
 みんな厳しいのを知っている。
 今回は寄付した事にしようと諦める気だ。

「くっそ! ああーくそ!
 返すならちゃんと返せってんだよ!
 神人のアホーっ!」

 イェンナ憤慨。地団太を踏む。
 石を蹴る。投げる。
 跳ね返って来て顔に当たり……大丈夫か。

「ちくしょう……ちくしょう!
 あたしら孤児は何やってもダメかよ!」

「で、でも、今日だけで10万稼いだよ?
 すぐ取り返せるよ……きっと……」

 言いながら、フェドラは震えた声。
 精いっぱいの笑顔を作って。
 しかし涙でクシャクシャに……
 やっぱり、悔しいは悔しいのだろう。

 犯人は必ず捜すとして。
 まずは飯食ってからにしよう。
 教会に帰り辛いだろうから東区の酒場へ。
 シスターにはノイエ達から伝えておくれ。
 どうか心配しない様に。

「ああああのね、私達が倒したんだよっ」

「ぐわぁ〜って来るの。
 そしたらバンバ〜ンって」

 酒場へ。先に来ていた3人。
 サンドラ、ユッタ、マリナ。
 俺達を待つ間、ガイゼル達に自慢話か。

 ユッタとマリナが得意げ。
 見ていたら同意を求めて来て……
 うん、よくやったな。

 わわわ私は、とサンドラ。頑張ってたよ。
 私は〜とフェドラ。うん、上手だった。
 イェンナがチラチラとこちらを……
 ああもう、来なさい。みんな褒めてやる。

 ユッタ、マリナから順に頭を撫でる。
 うりうりうりうり。

 指の腹でトゥーリカの頭も撫でる。
 うりうりうりうり。

 最後に……フェドラを抱き締める。

 これからも面倒見てやる。
 サイクロプスだって、幾らも倒させる。
 だから、元気出してな。

「う、う……悔しい……
 やっぱり……やっぱり悔しいよぉ……!」

 ギュッと抱き締め返して来るフェドラ。
 やがて嗚咽。派手に泣き出してしまった。

 ずっと耐えて、我慢して来た少女。
 ようやく本音を外に出せたのだろう。
 今は泣きたいだけ泣きなさい。



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