黒鷲の旅団
3日目(8)ネドコハココダ

「絶対許せない。
 ゆ・る・せ・な〜い!」

 事情を聴いて、ユッタ憤慨。地団太。
 ほっぺをパンパンに膨らませてしまった。
 まあ、その……落ち着いてな。

「でも、良いのかい?」
「シスターに話だけでも……」

 女将さんやガイゼル達も心配してくれるが。
 フェドラ、シスターに悪気は無いからと。
 半魔って言うかもう聖女様の風格だな。

「え、えへへ。そんなんじゃないよ〜」

 夕食後。
 まだ帰り辛そうなフェドラとイェンナ。
 幸いにも女将、一部屋空いたという。
 物置から移らないかと言われ。
 代わりにフェドラ達を泊めてやって。

「わー、フカフカベッドだぁ〜♪」
「そ、そっか、下宿する金ならあるんだ」

 宿泊費を出せる。
 撃破報酬の分け前が懐にある。
 安住の地(借り物)が、今ここにある。

 部屋も決まった所という所。
 爺さんや大魔女さん達が来訪。
 自宅のある子を迎えに来てくれた様だ。

「あー、それとそれと」

 ついて来ていたシャンタルから2冊の本。
 タイトルから察するに、魔法の指南書か。
 俺が魔法に興味があると知って?
 ああ、フレスさんから聞いたらしい。

「あっ、それならあたしも〜」
「私からも、どうぞ」

 上級魔女ヘリヤから1冊。
 大魔女フレスさんからも2冊。

 サンドラが世話になっているからと。
 裏を返せば、サンドラちゃん。
 何だかんだ大事にされてるなぁ……

 表紙をめくってみる。
 魔法の概要から、用法、応用例。
 これは興味深い。

「あっ、そ、それじゃあまたね!」

 俺の読書を邪魔しては悪いと思ったか。
 ユッタ達は早々と帰宅に掛かる。
 それじゃ、また明日な。
 マリナも送ってくれるという。
 お願いします。

 俺は女将にコーヒーを貰い、読書。

 1冊目のタイトル。
『魔法を使って冒険に行こう!』だとか。
 なるほど、探索に役立ちそうな魔法が並ぶ。

 箱や扉の鍵を開ける解錠魔法。
 これは泥棒向きか?
 逆に閉める施錠魔法もあるのが興味深い。

 新魔法の他にも、用例の記載が役立つ。
 例えば探知魔法の熟練レベルを上げる。
 調査対象が広がり、資源なども探せる様だ。

 それから……転移魔法。
 所持品を他へ送ったり取り寄せたり。
 所持品? 人体は。人体の移動……
 人体の移動は熟練レベル30からだと。

 次は『家庭でも使える魔法医療』から。
 解毒と浄化の魔法について……浄化?
 毒を打ち消すのが解毒魔法。
 対し、浄化魔法は殺菌に近い。
 抗生物質の様な印象。

 並ぶ鎮静魔法ってのは?
 精神系の解毒魔法って事か。
 痛み止めの鎮痛魔法もある。
 多用は厳禁、ってのは鎮痛剤と同じだな。

 次いで『初めての錬金術』より。
 錬成魔法の用例と……分解魔法?
 素材を生み出す錬成魔法。
 に対し、製品を素材に戻すのが分解魔法。
 元素分解でなくとも、解体とか。
 鎧を鉄くずに戻したりにも使える。

『生活と魔法』より、魔法諸々。

 演算魔法。
 使ってみると脳内ウインドウに計算機能が。
 空間魔法と併用で測量も出来るとか。
 ズバリ測量魔法、というのはないのか?

 ここまでザっと目を通したが、幅広い。

 取捨選択して強化していくべきか。
 しかし、幅広さもまた維持して行かないと。
 知識とは力だ。活かせるかどうかは俺次第。
 知識を組み合わせれば何倍にもなるだろう。

 などと物思いに耽っていた折。
 イェンナとフェドラの姿。
 意を決した様に、イェンナが頭を下げる。
 どうかした?

「あのっ、あのっ、すんません!
 じょじょじょ上納金は待ってください!」

 盗賊団に上納金があるとは聞いていたが。
 今言ってる上納金ってのは、俺にか?

 怪物退治の報酬分配。従者にも何割。
 恐らく神人的なシステムだが。
 そこまで徴収して回る奴も居るとか。
 酷い話だが、結構横行しているらしい。

 そうか、宿代だ何だで心配になったのか?

 俺は上納金を取らない。
 自分の為に使いなさい。
 お前らが元気に戦ってくれると俺も助かる。
 あー、でも、消耗品。
 弾丸とかは自分で買ってくれると良いかな。

「わ、分かった。弾丸とか……うん」
「良かったねぇ〜♪」

 付き添いに来ていたフェドラは、就寝へ。
 笑顔が溢れている。
 幾らか元気が出た様で、良かった。

「おっちゃん、あのさ……あの……
 な、何でもないや。はは。また明日な〜」

 イェンナの方は……何だ。
 大丈夫か。まぁ、また明日な。



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