黒鷲の旅団
3日目(9)魔女の貸本
イェンナとフェドラを部屋に送って。
キャッキャ騒ぐ声を尻目に退出。
女将さん、コーヒーお代わり。
俺はまた読書に戻ろう。
最後に、ヘリヤからの1冊が残っている。
『魔女の決闘』だと。
入門書というより実用書だな。
魔法そのものでなく発動形式が幾つか。
威力を抑えてでも連発する連射魔法。
簡略化して発動自体を早める速射魔法。
チャージして威力を上げる収束魔法。
地面や空間に設置、罠の様に使う設置魔法。
武器に付随させる付与魔法があるらしい。
最後に……と。
本書の締め括りがまた興味深い。
魔女は本来、決闘などする物ではない。
譲れない物の為にのみ。
しかし躊躇わず戦え、と来た。
著者、大魔女ヴィズルフェルナ様。
こちらは会った事が無いが。
編集、ヘリヤ・ヘリオット……ヘリヤ?
この本にヘリヤさんが関わっている。
だとすると。俺にこの本を勧めたい。
そう思ったキッカケは何だろう。
ヒャッハー野郎に剣を抜かなかった辺りか。
何かしら共感を得ただろうか。
剣を抜かなかったのは気まぐれだが。
今後も期待を裏切らない様、肝に銘じよう。
「またお勉強?」
「あ、懐かしいの読んでる」
冒険者、ガイゼルのチーム。
女子ベデリアとサスキア。
彼女らも生業は冒険者だが。
出自としては魔女だった。
魔法のアドバイスがあると助かるんだが。
「じゃあ、一杯奢ってくれたら」
じゃあ女将、カクテルを。
っと、詳しくない様で、俺が作ろうか。
材料、お酒、何かある?
発砲ワインとカシスリキュール。
コイツを混ぜて……
キール・ロワイヤル、だったかな。
「うふふ。ロワイヤル。何かカッコいい」
「あ、美味しい。これ好きかも。覚えとこ」
「どれどれ、あたしにも一口」
女将さんも味見して、覚えてみたいという。
一頻りカクテルを楽しんだ所で、続きを。
摘まみ? ああー、奢る。女将さーん。
聞く所、魔法は各系統の熟練度を。
つまりスキルレベルを上げた方が良い。
序盤はレベル5毎に1つ。
同系列の新しい魔法が発現するらしい。
NPCでレベルなどと分かるのかと思えば。
解析魔法のステータス表示。
これがNPCからも同じに見えていて。
数字を階梯だの階級だのと呼んでいる。
で、その……スキルレベルか。
例えば炎魔法。
最初はファイアボールだけだった。
俺も熟練レベル5が超えた。
ここで、次のファイアボムを習得している。
炎魔法第2階梯ファイアボム、かな。
ファイアボールも消えた訳ではない。
1つ手札が増えている。
スキルポイントも溜まって来た。
もっと振っても良いか。
羨ましがられつつ、割り振りを行う。
幾つかをレベル5に。
あるいは10、切りの良い所まで上げる。
習得した魔法が脳内リストに上がる。
風魔法は単発ウインドアローに次ぎ。
小範囲エアロブラスト。
強酸魔法アシッドバレットに次ぎ。
小範囲アシッドボム。
解毒魔法にキュアパラライズ。
これは麻痺毒に効く様だ。
あと、特筆すべきは転移魔法か。
転移魔法の初級トランスポートアイテム。
これは保管場所へ余った品を送る魔法だが。
次がコールストレージ。
これが保管庫から品を呼び寄せる魔法だと。
余した矢弾を保管場所から出し入れする。
持って歩かなくて良い。
地味だが凄く有用じゃなかろうか。
スキルポイントを若干残して割り振り終了。
上に伸ばすのも大事として。
また新魔法があったら覚えたい。
『やっほー、不審者さんから通信だよー』
『不審者ではなく!』
『流石ヘリちょん、イタズラ者』
『自虐だったんだけど……あれー?』
ヘリヤから通信魔法。
に、グレッグとイメルの声が混ざる。
通信の中継?
グレッグは魔女協会に居るのか?
グレッグは流しの暗殺者。
そういう肩書きにしている様子。
到着早々、暗殺教団からスカウトされた。
そこでイメルと知り合った。
イメルは魔女協会とも繋がりがある。
魔女協会に顔を出し、ヘリヤ経由で通信か。
子供らの体術指導を、と持ち掛ける。
しかし、少し時間が欲しいと言われる。
グレッグも同じ世界から来た。
レベルもスキルも引継ぎ無し。最初から。
有用なスキルを持って指導に移りたいと。
「すまんな。急ぐ案件だとも思うのだが」
子供達は幸い遠射主体。
まずは組みつかれない様に配慮しよう。
暗殺教団の技は、俺も少し興味がある。
「まだ寝ないのー?」
ポケットの中からトゥーリカ。
目を擦りながら声を掛けて来た。
もう寝るよ。お前も部屋に帰らないと。
部屋にしているカゴの中に運んでやる。
ベッドに身を横たえ。通信履歴が2件。
1件はサナトスとロッシィのコンビから。
連中もこっちに向かっている。
あと、サンドラから無事の帰宅。
明日もよろしくと。
明日。明日はどうするかな。
本を返して、礼を言わないと。
それから……
前へ
/黒鷲の旅団トップへ
/次へ
|