黒鷲の旅団
3日目(10)不穏
それから……今どこだよ。
端末の接続を解いて、相棒に呼び掛ける。
相棒。現実世界側のサナトス。
『待機中にゲームリンクとか、余裕だな』
状況は並行して追っている。問題無い。
例えるなら、ゲーム世界で読書をしつつ。
頭にはラジオが流れている感覚。
連携側が時間掛かっていて、暇なんだよ。
『ははっ、暇だからさっさと出て来いってか?
狙われてる方は堪ったモンじゃねーな』
標的は産業スパイ。
ネオ・ストラデラ・ロードを逃走中。
機密情報を持って逃げた可能性がある。
よほど重要機密なのだろう。
逃走犯には射殺命令が下っている。
機密……今時、物理媒体で持ち逃げとは。
現地でロックを解除できなかった、か。
目標をロックごとコピーして持ち去った。
らしいが、その過程で足が付いた。
軍事企業を相手に下手を打ったものだ。
見つかった時点で消されても不思議は無い。
うちの企業は盗難を受けた所と友好関係。
恩を売りたい。捕り物劇に参加中。
射殺自体、そう難しくない。
高度復興中のネオ・イングランド。
ビル街には監視カメラも無数。
次の十字路に飛び出した時が奴の最後だ。
『来たぜ。あと20秒。用意してろよ』
相棒の声。用意済みだ。
狙撃銃はバルメット系列のカスタム銃。
ナイトスコープ装備。
弾丸は対戦闘義体用。
追われて駆けて来る人影。
頭に狙いを定め……俺は躊躇した。
……パラディオン、だと?
冒険者パラディオンと同じ顔が見える。
くそ、撃ち損じた。狙いを変える。脚。
負傷した相手はビルに逃げ込んだ。
俺は右の義手からワイヤーを投射。
ワイヤーを巻きながら虚空に身を投げる。
狙撃地点の高台から降り、奴を追う。
追いつけるか……
「うおっ! こ、殺すのか……?」
踏み込んですぐの所に居た。
思いの外、撃たれた脚が重症らしい。
着弾部位は義体化していなかったのか。
殺すのか……どうかな。
俺は右手で銃を抜く。
左手でポケットの榴弾を抜く。
榴弾を後方に放りながら、射撃。
跳弾が榴弾を打った。
俺の後方で派手めに爆発した。
『おい、どうなった!?』
相棒の声。標的は自爆した。
と言いながら、座り込んだ男の映像を送る。
『分かった。後で詳しく話せよ?』
相棒からの通信は途絶。
上手い事隠蔽してくれるだろう。
「すまん、助かった」
息を切らした産業スパイ。
ラーティカイネン。
冒険者パラディオンと同じ顔だ。
現実世界でも冒険とは、忙しいな。
「冒険? あっちの世界で会ったかな」
そんな所だ。助言を貰った借りがある。
盗んだブツを諦めれば命は助けよう。
ホトボリが冷めるまで、潜伏して……
と、持ち掛けるのだが、様子がおかしい。
彼は小型の情報端末を投げて寄越す。
「俺の事は良いんだ。いや、良くは無いか。
それより、こいつの解析を頼みたい」
情報端末の中身は、盗んだ機密情報。
軍事産業の……違う?
例のゲームに関する情報だと?
あのゲームはおかしいと言う。
上手く話せない様子だが。
これを見れば分かると。コピーしたブツか。
外で救急車のサイレンが聞こえる。
どうやら相棒は、俺の負傷を装ったらしい。
ラーティカイネンを担いで乗り込もう。
相棒のジャミングもある。
監視カメラの心配はあるまい。
しかし、産業スパイがゲームの情報とは。
彼は何故、そんな物を命懸けで盗んだ?
ヘビーユーザーの趣味、にしては大仰だ。
……本社の情報部にでも回してみるか。
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