黒鷲の旅団
4日目(1)子守殿と朝の鍛錬

「ねぇー、起きてぇ〜ん。
 お・は・よ・う♪」

 目を覚ますと、胸の上に妖精トゥーリカ。
 何故かセクシーポーズ。また、この娘は。

「へへへ、好きかと思って」

 どこ情報だ、全く。
 起こすなら普通で良いんだ、普通で。

「ほら、あたし、あんまり役に立ってないし。
 お金も貰っちゃってるし。
 だから、何かしてないと居辛いかなって」

 そんな事を気にしていたのか。
 ちゃんとサイクロプス見張ってただろう。

 待遇が良過ぎても不安、か。
 みんな同じだろうか。
 もっと褒めてやった方が良いのかな。

「そんじゃ、また後でなー」
「ごめんねー」

 朝食後、イェンナとフェドラは用事。
 一時離脱していく。
 俺も魔女協会に本を返しに行かないと。
 集合、冒険は昼からにしよう。

「む、貴殿か」

 魔女協会に足を運ぶとグレッグ達の姿。
 イメルさんと魔女協会に顔を売りに来た?
 ついでに俺にも顔を見せに来たのか。
 壮健そうで何より、という奴だ。

 居合わせたヘリヤに本を渡す。
 フレスさんとシャンタルの分も預ける。

 あとはどうするか。子供達の集合は昼から。
 また配達依頼でもして過ごそうか。
 そんな折、イメル、ヘリヤから。
 訓練のお誘いがあった。

「いきなり高難度な技を教えたりはせんよ。
 まずは基礎からだな」

「となると、国軍の訓練所だね。
 武器の練習も出来る。
 簡単な武技なら教えて貰える。
 ハインちゃんも見るだけでもどう?」

 案内され、訓練所へ。
 新兵達が武器の扱い練習をしていた。

 立ち入ろうとすると、衛兵に待たされる。
 指南役に確認を取る様子。

 指南役は……騎士ローレンシアだったか。
 騎士団長と歩いている所を見た事がある。

「騎士様、神人が……」

「神人? ああ、その者は良いんだ。
 通してやってくれ」

 女騎士殿、最初は怪訝な顔をしていたが。
 俺の顔を見て表情を変えた様だ。
 駆け寄って来る足取りは嬉しそう?

「すまんな、子守殿。
 手荒な神人が多いのでな。
 普段は一般開放して居ないんだ。
 貴殿なら構わん。好きに使ってくれ」

 子守殿というのは、どうやら俺の事か。
 口ぶりからして悪い印象では無いらしい。
 評価されているのか。
 本当は必要な訓練場使用料が免除に。

「頼み込む前から通っちゃったよ」
「ハイン殿サマサマだなー」
「ハイン様ー」
「おおー、それだ。ハイン様ー」

 ヘリヤとイメル、何故に崇める。
 経費が浮いたのがそんなに嬉しいのか。

「ははは。2人共、変わらんなぁ」
「おっ、優等生。生意気に余裕ぶって」

 ヘリヤとイメル、ローレンシア。
 昔は一緒に冒険をした仲らしい。

 ヘリヤが上級魔女。
 魔法剣士かつ、銀等級冒険者。

 イメル、元盗賊、元拳闘士、暗殺者。
 加えて赤銅等級冒険者。

 ローレンシア、元剣士、騎士、
 そして同じく赤銅等級冒険者だと。

 色々やってんだな。
 NPCも急に湧いたのではない。
 順を追って生まれ育った。
 それぞれに人生を歩んでいる。

 さておき、訓練を始めよう。
 ローレンシアに指導料を支払う。
 スキルを幾つか教えて貰う。

 俺は弓術から。
 マリナも使う複数射撃技を教わる。
 装填に関わる矢継ぎの心得も欲しい。

 あとは剣術が3つばかり。
 袈裟斬り、突き、返し刃。

 スキルなんかなくても繰り出せる型だが。
 軌道をなぞった時にダメージが増す。
 NPC達の解釈は、基礎を覚えると云々。

「こちらは剣技5、弓2、体術3だ。
 少し打ち合ってみないか?」

 グレッグと組み手……は、良いのだが。
 まずは錬成魔法で木材を生成。
 工作スキルで木刀を作る。
 生き返るから真剣でもと言うが、逆だ。
 生き返るからと、変な癖を付けたくない。

 グレッグにも木刀。
 一応は刀カテゴリ。打撃武器。
 当たっても死ななくて、それなりに痛い。

 組手開始。こちらが先手。
 袈裟、返し刃、突きの3連撃。
 グレッグは打ち払い、武器受け。
 次いで後退で躱す。

 躱した所で反撃が来る。
 グレッグの突き、逆袈裟。
 袈裟、突き、斬り払い。
 俺は回避、武器受け。
 下がる、下がる、潜る。

 眼前に蹴りが迫る。
 左方向横転で回避。
 斬り上げ……躱された。
 反撃は転進からの強打。
 刀に左手を添え両手で受ける。

 そんなこんなで数十分。
 日も高くなり、お開きにしよう。

「なかなかの見物だった。
 やはりグレッグ殿が強いか?」

「いやいやどうかなー。
 ハインちゃん魔法使ってないし」

 グレッグやイメル、ヘリヤは先に帰還。
 それぞれ仕事があるという。
 時間がある俺は一息ついてから。
 汗を拭い、水でも貰いに行こう。

 という所で、

「大変だよ! 大変だよう!
 イェンナちゃんとフェドラちゃんが!」

 マリナが慌てた様子で駆け込んで来た。
 イェンナとフェドラが、どうしたって?



前へ黒鷲の旅団トップへ次へ