黒鷲の旅団
31日目(1)追跡魔法の欠陥

「これ……え、マジか」
「こんな抜け穴があったとは」

 大魔女フッケバエナとフリアリーゼ。
 愕然とした顔を見合わせる。

 異世界側は夜半過ぎ。
 ブラックマーケットの一角。
 バダンテール子爵襲撃事件現場。
 調査の為に大魔女達に来て貰った。

 確認したのは追跡魔法の結果だ。
 最終使用者、元冒険者バレリオ。
 最終被害者、バダンテール子爵。
 バレリオがバダンテールを刺した。
 そう解釈出来る結果が出ている。

 しかし、現実は。

「間違いないのだな」
「ああ、確かにご子息だった」

 問うたのはガーランド子爵。
 答えるのはバダンテール子爵。

 真犯人はダニエル。不良冒険者。
 ガーランド子爵の息子だったと。
 被害者自身がそう語っている。

 それで何故、この追跡結果になったか。

 バレリオは剣を持たされた。
 そこにバダンテールが押し込まれた。
 誰に。ダニエルに。

「これもう、追跡じゃないじゃん。
 ただの触ったひと表示魔法じゃん」

「急ぎ解明を。告知が先か。
 この様な手を何度も使われては」

 大魔女達の、魔女協会側の対応。
 追跡魔法の不完全性の公表。
 せめて同じ手を使えなくしたい。
 大陸魔法機関に連絡を取る。

 他方、貴族達は。

 まずバダンテール子爵の身柄だ。
 ガーランド子爵が保護する?
 息子ダニエルが戻って来ないか。

 目下、懸念事項は口封じだ。
 被害者が生きていて、奴はどうする。
 平民相手なら貴族特権で放免でも。
 今度は貴族相手の殺人未遂だ。
 止めを刺しに掛かるかも知れん。

「もはや言い逃れはさせん。廃嫡だ。
 戻るなら戻るで逮捕してやる」

 冷静でないガーランド子爵。
 父として育て方を誤った。
 その自責の念やら何やらは分かるが。
 祖父の方が口を挟んできたらどうなる。
 相手は伯爵だ。動員可能な兵力も上。
 最悪、纏めて消されるんじゃないか。

 元々確執があっただろう。
 嫌いな息子を始末して孫に継がせる。
 そういう可能性は無いと言えるのか。

「では……どうしろと」

 公主に先に連絡を入れる。
 証人は城に匿って貰う。
 公主の権限で、奴を国軍で引っ張る。

「身内の恥を晒せと言うのか。
 ガーランドは武門と自負している。
 犯罪者とあらば国家の敵だ。
 国家の敵は討たねばならぬ。
 この手で奴の首を跳ね御前に献上し」

 待て待て待て。

 言いたくない事だから隠さず言う。
 正直に言って得られる信もある。

 司法統治的な体裁もある。
 沙汰を仰ぐべきじゃないのか。

「あくまで法治に則ると?」

 そうだ。法で裁く。

 この国には貴族特権がある。
 それは司法統治の体制としては幼い。
 公平な判例を積み重ねないと。

 奴を私刑に掛けたい奴は山と居る。
 しかし奴の首は1つしかない。
 公に納得を得るべきでは。

 最後に首を狩るのがあんただとして。
 審議には掛けるべきじゃないか?

 難しい顔をするガーランド子爵だが。
 バダンテール子爵が口を挟んだ。

「わ、私としてもだな、その。
 公主様の庇護を受けたい。
 貴殿を信用しないではないが」

「あっ……そ、そうか。そうだな。
 私からの口封じも懸念になり得るか。
 分かった。公主殿下に預ける。
 そこの冒険者も来い。貴様も証人だ。
 口を封じられるかも知れんぞ」

 バレリオとバダンテールを伴って。
 ガーランド子爵とマーケットの外へ。
 ここの連中は国の介入を嫌う。
 城兵を呼ぶ前に離れよう。

 大魔女さんら、通信は?
 用件は受け取られた様だ。
 ただ、告知公表は朝になるだろうと。

 じれったいが、公主もまだ国外だし。
 この件の続きは夜が明けてからだな……



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