黒鷲の旅団
31日目(5)衝突回避1
〜魔女協会前問答〜

「はい、これ没収でーす」
「ぎゃー! それだけはあああ!」

 魔女協会の敷地。門の前。
 フレスさんが神殿騎士とじゃれている?
 手持ちサイズの箱を取り上げられて。
 何か隠し損なった物でもあったかな。

 取り上げた鎧姿。神殿騎士。
 あれは多分アウローラさん。
 兜で顔は見えないが。

 神殿騎士が魔女協会を調べに入る。
 そう聞いて俺も魔女協会に足を運んだ。

 門の外には集まった民衆。
 先頭に見た顔があるな。誰だった。
 確か、娼館……潰れた娼館の主人。
 ウォッシュバーンとか言ったか。
 病人を俺に押し付けた奴。

 あと、門の中に魔女達……
 不満げな顔をしては居るものの。
 乱暴に扱われた様子はない。

 アウローラさんが箱を持って行って。
 フレスさんがアタフタついて行って。
 残された民衆はザワザワ。

 調査は……状況は如何に。

「うむ。まあ……けしからん。
 とんだスケベ娘が居た物だが。
 ええい、静まらんか」

 喋っているのはベルトラムか。
 異端審問官の爺さん。
 取り巻きに神殿騎士達。

 スケベ娘とはフレスさんが?
 一体何を見られたんだ……
 ともあれ、爺さんが民衆に説明する。

「程度はともかく破廉恥が精々。
 不徳だが神への冒涜と評するに至らず。
 また、疫病との因果は認められん。
 此度の件、即時焼き討ちには値せん」

 今回の事態は穏便に収める様だ。
 大司教の進言でもあったのだろう。

「何だー」
「誰だよ魔女のせいつった奴」
「俺は信じてたぜ」
「嘘つけ」
「あっ、そっ、それは困る!」

 困ると声を上げたウォッシュバーン。
 魔女が焼き討ちにされないと困る?
 一同の視線が彼に集まる。

「あ、いや……だだだって魔女だぜ?
 裏で絶対悪さしてるに決まってる。
 魔女はほら、神の敵だろ?
 滅ぼすのが神の御心って奴さ」

 根拠がある様で、まるで無い。
 絶対に決まってるとは何の憶測だ。
 異端審問官はフンと鼻を鳴らし、

「この者を引っ立てい」

 ウォッシュバーン捕縛を指示。
 神殿騎士達が縄を取り出す。

「なっ、え、嘘だろ!?」

「本当に天啓を得たというのか?
 凡俗が神官を差し置いて。
 今こそ魔女を討つべしとは誠の神意か?
 人が神を騙ろうとは不遜も不遜。
 それとも貴様こそが悪魔の手先か」

「そいつ、娼館のボスだよ!」
「女を食い物にする奴!」
「そうだ、悪魔の手先ー!」

 魔女達が口を挟んで来て。
 異端審問官の目がキラリと光る。
 一気に不利だなウォッシュバーン。
 ズルズルと引き摺られて行く。
 群衆はまたザワついて。

「静まれい。監視の目は置く。
 疫病についても引き続き調べる。
 教会の庇護が絶える事は無い。
 皆、安心して稼業に戻られい」

 異端審問官が裁定。
 群衆は各々、街へ散って行った。

 一段落……どうかな。探知情報。
 敵対反応が消えたでもない。
 また炊き付けられないとも限らん。

 ふと、異端審問官と目が合う。
 随分と穏便に済ませて頂いて。
 何か丸くなりました?

「それは魔女らの方だろう。
 揉めるなとの達しはあったがな。
 素直に調べに応じたのが大きい。
 でなければ討ち入りもあり得た。
 丸くなったな。お前の手柄か」

 冷静に、とは言っていたけれども。
 元々の資質だろう。
 それを引き出したに過ぎない。
 手柄なんて程の物じゃない。

 ウォッシュバーンの意図は何だろう。
 疫病は今日に始まった問題でないが。
 ここへ来て魔女に敵意を向けて来た。

「言わずもがな。念入りに調べよう。
 何かしらの意図があった、だろうな。
 そこに神を使おうなど不遜の極みよ。
 神の意に沿ってこその正当性と考える。
 人の正当化に神を利用すべきではない」

 そこら辺、素直に真摯だと感心しますよ。

 あと気がかりはフレスさん。
 何か罰せられたりしますか。
 破廉恥。何か不道徳的な?

「いや……まあ、何だ。
 ただの純愛スケベを罪には問えんが。
 まったく、あの様な呪物を……
 お前も苦労しておるわ」

 終いには異端審問官に肩ポムされた。
 フレスさんは何を見られたんだ。
 呪物。呪物って何だ。
 考えたくない想像が幾つか浮かぶ。

 まあ、その、とにかく。
 ウォッシュバーンは任せます。

 俺は俺で忙しく。
 忙しく動き回らないと。



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