黒鷲の旅団
31日目(7)衝突回避2
〜その聖戦ちょっと待った〜
「助かるよ。任せられるか」
出迎えたキャスティーナ子爵。
まあ、やってみましょう。
トゥルチャ農村部に移動。
まずは探知を広域に。
今現在、組織行動する敵は居ないな。
安全を確認して子供達の隊を展開。
村の防壁越しに魔物を掃討開始。
周辺の安全確保。
あと、逃げ散った残敵の捜索だ。
怪しい反応を見つけたら通信。
可能なら捕縛だが無理しなくて良い。
指示が行き渡った所で、村だ。
頼まれたのは怒った村の鎮静化。
気が立っている村民と話をしたい。
状況。ざっとキャスティーナさんから。
隣村の奴らが襲って来た。
武装した農民達と冒険者1パーティ。
撃退捕縛したが重傷者が6、軽症者多数。
嫌な記憶が蘇る。いつかの防衛戦。
「報復だ! 村を守るんだ!」
「これは聖戦だ!」
村長ゼールバッハ。
人馬族長老スラヴォミールさん。
レイニさんやヴィクトリエさんも。
年長者まで冷静でないのが良くない。
まあその……聖戦はやめれ。聖戦は。
人間の縄張り争いに聖とか付けるな。
「おお、黒鷲殿。良い所に」
「これで勝ったも同然だな!」
威勢を上げる村人達。
落ち着け。と言っても聞かんか。
聞きたい話しか聞こえなくなっている。
寄り添う様な話題から。
被害状況は。負傷者はどうした。
手当ては……済ませた後か。
先に来たアンヌが診てくれた様だ。
早く報復に行こうと言い出す。
待て。誰が怪我を。重傷者は。
重傷者。鍛冶屋デトレフ。
元奴隷兵の少年セリム。
ハンナデルタの従者レギーヤ。
新顔ではフェオドールとメリーナ。
移住してきたエルフの夫婦だという。
越して来て早々に被害は辛いなあ。
人馬はヨナーシュ少年。
少年らでは気弱な方だと思ったが。
年少のスヴェトラナを庇って重症。
スヴェトラナも軽傷を負った。
「そうです。許せません」
「仇を取りたい!」
「聖戦だ! 正義の戦いだ!」
子供や非戦闘員に被害が出ている。
なるほど、腹の立つ事態だ。
威勢が上がるのも分かるんだが。
捕虜は。捕虜は居ないか。
言い分を聞いておきたい。
殺しちまえとか言う声も上がるが。
まず論破して分からせてやろう。
冒険者は後で良い。
村人。襲ってきた事情は何だ。
何か言い分は無いか。
連中の事情。食糧難。
原因は麦角菌の様だ。
小麦を中心に生産していた村か。
麦角で作物が壊滅状態。
他所から奪うでもしないと飢える……
それで奪って良い事にはならんとして。
何故、この村を選んだ?
見るからにヤバそうな村だぞ?
弓持った人馬族がウロウロしてる。
一度揉めた経緯から防壁もある。
バリスタやら幾つも残っている。
何故、攻め勝てると思った。
あるいは攻めて構わないと思った。
若い1人が、魔女だからと。
魔女の組した村だからだと言う。
麦角を撒いたのは魔女だから?
この村の無事は魔女の仲間だから。
だから攻めても構わないと思った?
「魔女さえ疫病をバラ撒かなければ」
「魔女違うのです。バラ撒いたのは。
おと、えー、魔王バティスタンなのです」
「えっ……でも、神父様が」
ハンナの訂正に疑問の若者。
どこの神父が何だって?
曰く、旅の神父が治療に来て。
どうやら魔女の魔法だと言った。
この村が魔女の手先だとも。
滅ぼすのが正義だとか言っていた?
何か、対立を煽ってるな。
その神父の人相書きを作る。
製紙魔法、読心、転写。
ゼールバッハ村長に見せる。
この人、最近寄らなかった?
「あっ!」
村長から村人から。
揃って心当たりのある顔をする。
そんな気はしたんだ。
急に聖戦とか言い出すから。
この村はそう敬虔じゃない。
マイナさんの、前村長の件だ。
聖職者を犠牲に村を存続していた。
加担していない者が大半だとして。
それでも薄々気づいていたハズだ。
それがここへ来て聖戦だと。
罪滅ぼしにしても唐突過ぎる。
総員、武装解除。頭を冷やせ。
誘導で戦争させられて堪るか。
叩くなら元凶に絞るべきだ。
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