黒鷲の旅団
31日目(8)黒鷲さん復讐論
「では、こちらの守りは任せる。
くれぐれも、冷静に。頼むよ」
そちらもお気を付けて。
軍を率いたキャスティーナ子爵。
捕虜を隣村まで護送する。
加えて、件の神父がまだ滞在中だと。
可能なら捕まえて事情を聞きたい。
煽るだけ煽って逃げたかも知れんが。
2つの村の対立を煽った。
意図せずとも内乱の誘発だ。
責任を問わないワケには行かない。
こちら黒鷲団は村の守りとして待機。
神父の目的が分からん。
2つの村に限定した対立、ならまだしも。
もし、この村を潰すのが目的なら。
他の村にも声を掛けているかも知れん。
引き続き、村の周りを巡回。
魔物は撃ってよし。
怪しい人影には停止勧告。
検問だ。厳戒態勢中とする。
素性を聞き荷を検める。
停止に応じなければ捕縛する。
「あのう、黒鷲殿」
ふと、ヴィクトリエさん。
取り巻きの戦闘要員達も。
おずおずと出て来て、何か問題が?
「利用されるのは、そのう。
確かに不愉快ではあるのですが。
報復は報復で行いませぬか。
子供を傷付けられた物も居ります」
報復……報復か。
襲撃して来た村に対して。
命を脅かされて身を守る。
止めてくれないから迎撃する。
結果、こちらも傷付ける。
過剰でも防衛ならまだグレーとして。
危機が去った後で、復讐だと。
これはちょっと怪しくないか。
復讐の度合いが正当なのと。
復讐自体が正当かは別問題だ。
襲撃を、侵略を受けた。
それ自体は咎めるべき犯罪だが。
侵略に侵略で返したら。
殺しに殺しで返したとしたら。
相手と同じ次元に落ちてしまう。
殺したのが先か後か。
そんな物は些細な違いだ。
殺すか殺さないかに比べたら。
どちらの殺しが正しいか。
殺さないのが正しいに決まっている。
怨嗟の間では対等の関係でも。
その外から見たら両方ヤバい奴。
同じ罪を犯して他人の罪を問えん。
罪なき者のみ石を投げろという奴だ。
それでも……どうしても許せない。
悪に堕ちてでも復讐したい。
そう思う事もあるだろう。
だが、その責を負わせるのか。
復讐の連鎖を、子々孫々に。
国家一族積年の恨み、なんてな。
粘っこく恨んで来る奴は必ず居る。
相手の親がやったでも無い事を。
顔も知らない他人の先祖の為にって。
要は誰かを攻撃する口実が欲しい奴ら。
悪を叩いて良い気分になりたい奴らだ。
叩く為に叩いて良い悪を捻出する。
そういう奴らに口実を与えてしまう。
結果、争いはいつまでも続く。
最初の想いなんて歪められて行くんだ。
復讐心、気持ちは分かるんだが。
最初の一手は慎重になるべきだろう。
悪に堕ちる覚悟はあるのか。
罪に問われる覚悟は。
残される者はどうする。
復讐の復讐を自分に集約出来るか。
覚悟と責任を用意出来るのか。
その辺、聖戦という言葉は狡いな。
武力行使の敷居を軽くしてしまう。
許されている様に思わせてしまう。
人類ごときの縄張り争いだぞ?
一方に肩入れする神なんて居るのか。
居たら居たで信用出来るか。
ご加護があろうと殺しは殺しだ。
人を唆して犯罪に手を染めさせる。
神のフリした悪魔という事は無いか。
悪魔の囁きだ。
そりゃあ都合良く聞こえるだろう。
乗せられて……より多くを失う。
そうならん様に慎重な判断をだな。
「うーん、理屈は分かりますが」
「スッキリしないなあ」
「だって許せない。うちの子を」
許さなくて良いんだ。
折を見て代償は要求する。
その許す許さないとは別に。
自分はどう振る舞う存在とするのか。
相手の悪事は自分の免罪符にはならん。
相手と同じ次元に落ちてしまう。
どうしてもと言うなら、皆と縁を切って。
自分が勝手にやったのだと。
事が済んだら出頭して罰を受ける。
そこまでの覚悟なら俺には止められん。
そうでないのなら、今は止めとけ。
一族の看板を背負って罪を犯すな。
咎が一族に及ぶ事になる。
機会を待て。正面から罪に罪で返すな。
「むぅー……」
ケンタウロスさん達、不承不承。
しかし踏み止まってくれる様子。
うん、まあ……すまんけどな。
キャスティーナさんの沙汰を待とう。
あまりにお咎めが軽いなら……
その時は、当事者同士で文句ぐらい言おう。
一発ぐらい殴っても良いかもな。
お叱りもあろうが、お叱りぐらいだろう。
さておき。通信。子供達の状況。
今の所、敵対的な人間の動きは無し
魔物は大物も居た様だ。
あと、幾らかの動揺。
ニアが何か? 後で詳しく聞くよ。
巡回は骸骨騎士団や魔物隊と交代しよう。
休憩と、新人達に魔女授業も必要だ。
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