黒鷲の旅団
31日目(10)逃げ足は勇み足よりも疾く速く
「えっ、撤収?」
「村は? どうすんのさ」
振り返るティルアとカーチャ。
いいから。一時撤退だ。
トゥルチャ農村地帯。西方。
俺達は防衛陣地を捨てて側面方向へ。
林の中へと身を隠す。
「あっ、足止め」
ユッタ、しないしない。一旦逃げる。
撃つと居場所がバレる。
探知魔法を停止、遠見魔法で偵察する。
村に押し寄せる敵対反応。
探知で捕捉、解析を掛けて気付いた。
ヤバい物が混じっている。
「うわ、何か来てる!』
「鉄の……何か平べったい奴」
「あれ。大砲じゃね? 前のトコ」
子供達の感想。そうだな。
どうやら戦車だ。型はレオパルト2。
敵を先導する形で20台ばかり。
持ち込んだのは異世界人だろう。
面倒なクラフターが敵方に居るかな。
「堅そう」
「反射魔法掛かってる」
「あー」
ノイエが気付いて、みんな俺を振り返る。
そう。アレだ。前面に反射魔法付き。
矢弾が装甲、付与が反射で防がれる。
射撃でアレを貫くのは難しい。
「パンツの奴はー?」
パンツ……ァーファウストか。
効くとは思うが、数が足りんだろう。
と、何人かが転移魔法からチラ見せ。
数はそこそこ。いや、でも、高いし。
多少外しては討ち漏らしも出るだろう。
向こうの攻撃も怖いんだ。
障壁魔法で防ぎ切れないかもしれん。
障壁魔法は弾体の運動を消失させる。
弾丸も刺さらん位に失速させる。
ただ、大質量だと抑えきれない。
落ちて爆発する物とも相性が悪い。
炸薬入りの戦車榴弾など最たる物だ。
結論。準備してから出直す。
村は一旦取らせて奪還する。
と、戦車の車列から砲撃。
勧告も無しに撃ち始めただと。
通信。村に向け広域通信。
全員避難。守ろうと考えるな。
『弱腰が過ぎませぬか。
戦わず蹂躙されるがままなんて。
我々は戦士の一族です!
せめて一矢報いるとか』
ケンタウロスはヴィクトリエさん。
抑制ばかりで不満になって来たか。
しかし、たい・たくないの話でない。
勝ちたいからって弱い敵が来るものか。
反撃の機会は必ず作る。
戦略的事情により後退して下さい。
『そんなこと言ってまたぬわああ!?』
爆発音。通信途絶。
流れ弾が近くに着弾したらしい。
おい、大丈夫か。
『げーほげほげほ!
ててて撤収! 撤収―!』
通信が戻って来た。
逃げて行くヴィクトリエさん達。
運が良いか、敵も威嚇発砲だったか。
戦車の位置は。まだ猶予はあるか。
俺達の前、防衛陣地を突っ切る所。
村から距離200m足らずに迫っている。
『あれって旗?』
『ん、教会じゃん!』
ティルアとアイリス。
側面から見て気が付いた。
戦車の後方に旗が立ててある。
どうも神聖教会のマークに見える。
魔女の組する村を攻撃する。
そこに正当性を持たせる為、かな。
しかし魔女は疫病に加担していない。
異端審問官が判断したばかりだ。
勧告も無く村に戦車砲を撃った。
旗を立て、神聖教会を騙って。
神聖教会にとっては外聞が悪い。
「被害、状況は」
アウローラさんが怖い顔で聞く。
いや、およそ無表情なんだが。
凍り付く様な空気が怖い。
通信。レイニさん。
避難状況は。もう少しだと。
一部住民が家財を気にしている様だ。
貯えが出来るのも善し悪しだな。
避難訓練とかやった方が良いだろうか。
着の身着のままで逃げるんだよ。
『すまない。我々で最後だ』
遠見魔法、望遠。
建物の陰にレイニさん。
と、荷物を担いだ農夫達。
ユッタ。と、呼んだ途端に銃声が複数。
銃士隊一同がゴム弾に転移魔法付与。
付与して出番を待っていた。
レイニさん達を手元に寄せて。
範囲を絞った探知。
村に逃げ遅れは居ないな。
他の逃げ散った奴らと合流しよう。
アウローラさんは。
見ると突っ込んで行こうとしていた。
ストップ。一緒に来てください。
どうしても行く?
せめて砲撃が止んでからにせい。
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