黒鷲の旅団
31日目(12)焼く者、焼け出される者

『この神父が危ない奴でな。
 セイラムの再現をする気だった』

 キャスティーナさん。セイラムとは。
 曰く、セイラム魔女裁判。
 現実世界で起きた魔女狩りか。

 キャスティーナさんから通信を受けた。
 内乱を誘発していた神父を逮捕したと。
 扇動者、神人。神父イグニスト。

 正体がバレるや不貞腐れた態度。
 気が触れた様な物言いで。
 これをどうにか要約した所。
 魔女が火刑にされる所が見たかった?

 要は放火マニアの死体愛好家?
 クソ趣味コンボじゃねーか。

『全くだ。ロクでもない。
 焼ける臭いだの悲鳴がどうのと。
 聞くに堪えんが直接話すか?』

 要らんです。
 そのまま、しょっ引いて下さい。

 扇動者の思惑は分かった。
 個人的な趣味。酷い趣味だが。

 ここに大ガーランド伯爵。
 都合が良いから扇動に乗っかったな。
 そっちの腹の内はよく分からんが。
 でっち上げでも大義名分を得て。
 村を、魔女を攻撃しようとしている。

 こちらの採るべき方針。
 降伏勧告の後、制圧。

 戦車は可能なら鹵獲したい。
 大きな敗北を体験してない子も居る。
 後々の対策、研究用に。

 とは言え、被害を抑えるのが第一だ。
 内乱で人が死ぬのも馬鹿馬鹿しいし。
 死人が出たら連中も罪が重くなる。

 クソな兵隊だろうと家族は居る。
 処刑して逆恨みとかな。
 想像に難くない未来だ。

 侵略への抵抗でもない。
 狼藉を働く自国民が相手となる。
 子供達の立ち回りは考えてやらないと。

「黒鷲殿。相談があるのであるが」

 執政官ヘイドルフ。何ですか。
 振り返ると奴隷商テルツァーニ。

 そうだ、公主が居ないんだった。
 戦争捕虜の身請けをしないと。

 健常者7名。
 欠損あり11名。状況が悪いな。
 あと、母親1……母親て。

 捕虜の子の1人の母親か。
 2人? 兄妹が居て、母親。
 一緒に捕まって来たらしい。

 中世社会。兵隊の略奪や誘拐。
 戦争捕虜からの奴隷落ち。
 それ自体は珍しくも無く。
 その奴隷階級の身請けとなる。
 要は買い取って解放すればいい。
 だから、まず買い取らないとだが。

 母親。ベティーナさん。
 美人でスラッとしたモデル体型。
 とても経産婦には見えないと。
 奴隷商の付ける値段が高い。

 しかも約束がある。
 俺は相場の倍値を払わなきゃならん。

 金貨7枚。70万。の倍。
 ベティーナさんを140万で身請け。
 他の子供達も計184万。
 324万の出費。払えるから良いけど。

「良かった。ああ、子供達……
 離れ離れではないのですね。
 お買い上げ頂いて、あの。
 大した事も出来ませんが。
 誠心誠意ご奉仕いたしますので」

 頭を深々下げるベティーナさんだ。
 ああ、違う。そうでなくて。
 自由にしてくれて良いんだ。
 路銀も出す。戦火を離れてくれ。
 子供達をよく守ってやって。
 ああ、でも行く当てが無いのか。
 戦火に焼け出されている。
 当面の住む所とか考えますので。

 取りあえずで兵舎の一室を借りる。
 ベティーナさんと子供2人。
 他の子も教会とかに連絡を頼む。
 引き取り先を探してやらないと。
 いや、まずは欠損者の状態を見るか。

 診断。治療。
 健常者にも病気持ちが居た。
 どうしても衛生管理がな……

 ふと思い立ち。
 帰りがけのテルツァーニさん。
 浄化魔法とか興味無いですか。
 身綺麗な方が取引し易くない?
 あんまり魔法使えんか。そうかー。

 テルツァーニを見送って。
 子供らの治療をしつつ考える。

 戦争捕虜。難しい。
 略奪を禁止しても行き渡らず。
 禁止だからと皆殺しでもな。

 せめて常備兵、職業軍人なら。
 諸々保証すれば略奪も減るだろう。
 ただ、兵を常備する。
 当然だが費用が掛かる。
 相応の経済基盤が必要になり……

 うーん……今考えるのは止そう。
 治療完了。一旦、騎士達に任せる。

 ケンタウロス隊が買い出しから帰還。
 使い方は教わったか?
 攻撃開始は夕暮れ。
 敵が夕食を取り始めたら襲撃する。
 早めにメシ食っとけー。

 俺はうちの子達と合流しよう。
 授業はどうだったかな、と。



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