黒鷲の旅団
31日目(20)対面、古狸と女狐

「判断が拙速だ、ギデオン。
 取り調べにはわしも立ち合った。
 此度の疫病、魔女共は白だ」

「それはおかしいぞ、マルクス。
 爪は剥いだのか。耳は。鼻は。
 粘り強く、奴らにやったと言わせよう。
 それで丸く収まるじゃないか」

 王城。会議の為の部屋。
 怖そうな顔が2つ言い争っている。
 公主はまだ来てないか。

 一方は異端審問官。
 マルクス・F・ベルトラム。
 他方、大ガーランド伯。
 ギデオン・D・ガーランド。

 ファーストネームで呼び合う。
 2人は親交があった様だ。

 しかし大ガーランド。
 絵に描いた様な特権階級だな。
 自分が黒だと言えば白も黒か。
 事実を捻じ曲げる。

 俺が戸口で様子を窺っていると。
 こそこそっと寄って来た執政官。
 何かありましたか。

「ヴィスコチルが死んだのである」

 ヴィスコチル……あいつか。
 先日捕らえた商業ギルド幹部。
 汚染小麦の流入に関与した。
 取り調べを受けていたハズだが。
 そいつが獄中で死亡。
 自殺か他殺かは調査中らしい。

 口封じされたのだろうか。
 そうなると逆に、指示役が居る。
 本人主導の小遣い稼ぎじゃない。
 誰かの指示で汚染小麦を寄越した。

 魔王は魔王同士で戦闘中のハズ。
 手一杯ではあるまいか。
 仲違いは望ましいかもしれんが。
 こちらにも協力者は居るだろう。

 怪しいのは大ガーランドだが。
 糾弾に至るだけの証拠が無い。
 何しろ、あの気質だ。
 現行犯逮捕でもないと認めまい。

 認めまい、が……このタイミング。
 どうしたって疑惑は深いなあ。

「ブラッドエーテルが出たと聞く。
 魔王バティスタンとの繋がりは」

「確かに禁忌の品ではあるが。
 昔から研究している者も居ろう。
 魔王との繋がりとは限るまい。
 大体、領内の者が勝手にやった事。
 わしは聞かされて居らん」

 知らぬ存ぜぬと来たよコイツ。

 捕虜を2人取ってあるが。
 証言させても無駄だろうか。
 いや、ヴィスコチルは口封じした。
 疑惑が立つのは好んでいない。
 捕虜は捕虜で保護するべきか。

 しかし、どうすんだコイツ。
 理屈が通用しない様に見える。
 強引に逮捕とか出来ないか。

「もう殺っちまおうかあ?」

 後ろからひょこっと公主。
 俺はそこまで言ってないけれども。

「公主殿下、それはマズいのである」
「わーってるわよ。例えば例えば」

 執政ヘイドルフに公主は生返事。
 冗談でもそういう事を言う。
 鬱憤は溜まっていそうだ。

「これはこれは、公主殿下。
 ご機嫌麗しゅう」

「はいはい、ごきげんよう。
 村に兵隊出したって?」

「情報の行き違いがあった物かと。
 引き揚げさせましょう。
 拘束を解いて頂きたい。
 しかし驚きましたな。
 突然、農地に火を放つなど」

「行き違いよねえ。疫病対策よ。
 早急に手を打ちたくて」

「では、燃やした麦について」

「補填するわ。補填。買い取り。
 炊き出しもつけましょう」

「それは結構。私からは以上です。
 引き上げてもよろしいかな」

「ああ、1つだけ。
 お孫さん、危ない事してない?」

「ヤンチャ盛りでお恥ずかしい。
 少し言って聞かせましょう」

「そうして。犯罪とかダメよー。
 あたしは貴族でも裁くからねえ」

「肝に銘じておきましょう」

 円満の様な釘刺しの様な。
 穏便の様な、戦々恐々の様な。

 公主が羊皮紙にサイン。
 神聖教会への嘆願書。
 兵の拘束解除かな。
 異端審問官に差し出して。
 彼は……少し笑った?

 大ガーランドが退出。
 手下どもも居なくなって。
 公主は背伸びを1つ。

「じゃ、始めますか」
「賜った」

 公主と審問官が不敵に笑う。
 何か企んでますね?



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