黒鷲の旅団
32日目(1)刺客共も夢の跡

「ふぅー」

 う……ちょ、何してる。

「起こそうかと思いまして」

 普通に起こしてくださいよ。
 揺するとか小突くとか。

 耳元に当たる風に目を覚ました。
 アウローラさんの吐息。
 馬乗りに密着されて。
 意識させたいんだろうか。
 単に悪戯者なのか。

 しかし、起こす。
 見張りの交代時間だっただろうか。
 何か問題ですか?
 相談したい事があるという。

 手招きに応じて小部屋の外へ。
 気配を感じて起きそうになるユッタ。
 探知。敵反応は無い。
 まだ寝てていいよ。

 小部屋の外は……血だらけ。
 損壊された死体が散らばっている。
 やったのはアウローラさん。

「普通の修道女と思われた様です。
 下品に迫って来たので仕方なく」

 その辺は疑いませんが。
 何か吐きました?

「特には」

 口が堅いな。どこぞの飼い犬か。
 となれば、まず刺客でしょう。

 救助隊という事はあるまい。
 座標も分からん様な迷宮の奥地。
 人を送って来るには早過ぎる。
 それこそ敵方でもないと。

 仮に位置を特定したとして。
 救助対象に発情するバカも居るまい。
 ……居るまい、よな?
 ギルドが人選を誤れば別か。
 それならそれで要らん応援だが。

 殺しに来て、物のついで。
 美人のシスターが居る。
 襲っちまおうとでも考えたか。
 飼い犬だろうが躾が悪い。
 相手との力量差も読めない。
 対した刺客ではなさそうだ。

 アウローラさんの相談事。
 この死体共の始末。
 バラバラ。子供達に見せられん。

 あとは何か情報を取れないか。
 1人ぐらい生かしておいたなら……
 自白魔法やら色々試したかったが。

 いや、皆殺ししかないかな。
 隙を見て人質を取られても困る。
 ずっと隙を見せないのも面倒だ。

 死体からの情報収集を図る。
 解析。死体が12人分。
 まずは所持品を剥ぎ取ってみよう。
 武装解除魔法から。

 諸々剥ぎ取ってみて。
 武具。仕込み武器。
 壊れていて再利用は無理そう。
 上着の下からは鋼板とか。
 割れた薬瓶なども出て来るが……

 冒険者認定証、が2つ。

 身元が割れる様な物を持ち歩く。
 暗殺者の所作に不慣れなのか。
 それとも単にウッカリなのか。
 偽造、偽情報の線もあるか?
 照らし合わせようにもバラバラ死体。
 一部はもう顔も分からん。

 死体そのものに転移魔法を試す。
 単に端に寄せたかったんだが。
 死体は物品扱いらしい。
 送信リスト表示。
 ここにアイテムボックスが浮かんだ。

 防腐・凍結魔法。
 保存処理を施しておいて
 改めてアイテムボックスに転送する。

「保存食ですね」

 まさか。食べませんよ。
 ぶふっと笑うアウローラさん。
 自分の冗談にウケている?

 アウローラさんの笑顔。
 目元は変わらず氷の眼差しで。
 しかし口角だけ凄く上げて来る。
 慣れないとちょっと怖い。

 さて、解析結果。情報。
 冒険者の誰さん、までは見えた。
 しかし、誰がどこの子飼いやら。
 夜が明けたら公主にでも送るか。
 調査を依頼しても良いかもな。

 ともあれ、このレベルの刺客。
 公主の相手になるとも思えないが。
 公主は健在だと知れているか。

 ……いや。どうかな。

 俺への刺客にはなり得ただろう。
 しかしアウローラさんなら?
 結果はこの通りの血の海で。
 誰が送られたか見えていないのかも。

 どの道、公主とは連絡を取りたいが。
 脳内ウインドウ。時刻。
 まだ午前4時を回った所か。
 この程度の情報で叩き起こすには早い。

 アウローラさんを仮眠へ。
 見張りを交代する。
 うろついているのはゴブリンぐらい。
 少し肩慣らしもしておこうか。



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