黒鷲の旅団
4日目(4)盗賊少女救出作戦
〜逃げ遅れた人は居ませんか〜

「幻影、神速、縮地スキル!
 どうだ、俺を捉えられるか!」

「幻視、空間把握、第六感。音響魔法エコー。
 その角度では致命になりませんわ」

 盗賊ラタトスクの奇襲を受け流す金髪美人。
 一見魔女だが体術もこなすとは。
 相応にレベルが高いのか?

 彼女はラタトスクの腕を掴んで止める。
 そのまま投げ飛ばし、壁に叩き付けた。

「あ、な、なん……っ!?」

「こう見えて、わたくしレベル7千ですの♪
 精神攻撃Sクラス、絶望魔法カタストロフ。
 ご賞味頂けまして?」

「うげッ! ま、まさか、その金髪。
 た、たっ、黄昏の大魔女!?
 聞いてねぇぞクソォ!」

 裏返った声のラタトスク。
 不利を悟って煙幕玉。
 追おうとするイメルさんだが、ストップ。

 空間魔法の視覚表示にアラート。
 盗賊連中、勝てないと悟ったか。
 どうやら火を放った。火災。
 探知情報にデンジャーゾーン表記が発生。
 深追いするより脱出した方が良い。

「う、ぐ……しかしっ!」

 帰るよー。美人ちゃん帰るよー。
 美人のお姉ちゃん帰るよー。

「ぶっ、く、くく……!
 分かった分かった。私の負けだ」

 露骨に美人美人言ったら笑い出した。
 こちらの判断に応じてくれる様だ。

 それにしても火の回りが早い。
 もう1人の美人さんが消火に向かったが。
 俺達は脱出に掛かった方が良いか。

「げほ、げほ、ごほっ!」

 マリナ、もっと姿勢を低く。
 火が回って来るが、それより煙が危険だ。
 探知、空間魔法……
 金髪美人の消火活動は上手く行ってない。

 息苦しいのを心配したのだろう。
 サンドラが風魔法を使い掛けるが、制止。
 空気を得ると炎も激しくなってしまう。
 ユッタの家にもフイゴって、あっただろう。

「げほ、げほ。
 お勉強より、脱出しないと」

 勿論だが、少し待て。
 探知、空間魔法に解析魔法を併用。
 最短ルートに火が回りつつある。
 無理に突っ込んで崩れても困る。

 人体にも使える、万能転移魔法テレポート。
 転移レベル30から使えるハズ。
 と、ポイントを振ってみるのだが。
 人間1人に消費100前後。
 魔力の方が足りない。
 アイテム転送なら僅か2で済むんだがな。

 次善の策。浮遊魔法なら?
 1つ目はフロート。
 地面から50p程、浮遊する。

 2つ目はスロウフォール。
 落下速度を遅く……うーん?
 宙に浮くには浮くが。
 空を飛ぶという魔法ではないのか。

 しかし、スロウフォール。
 こいつで外壁から飛び降りられないか。

 中庭に戻る。
 階段を上がり、外壁の上へ。
 火が迫ってるのが怖いが、冷静に。

 さて浮遊魔法スロウフォール。
 問題は、誰から飛ぶか。

「ホントに、これ大丈夫?
 大丈夫だよね?」

 子供達も心配顔。
 下で受け止めてやりたいのだが。
 俺が飛ぶと魔法掛ける奴が居なくなる。

「ボクらが居るじゃん。頼ってよ、もー」
「我々なら、術が無効でも着地できよう」

 ロッシィとグレッグが買って出てくれた。

 実験も兼ね、2人にスロウフォール。
 2人共、ふわ〜っと降りて行き、着地。

「大事無い。続いてくれ」
「結構面白いよ〜」

 大丈夫そうかな。
 意を決して子供達が飛ぶ。

「大丈夫、大丈夫……えいっ」
「はは、ナニコレ。ホントだ。面白い」

 子供達、慣れてきた様で、順調に避難。
 ハミルトンやイメルさんの方がジタバタ。

 残るは俺だけ。
 子供達が下で呼ぶのだが……少し待て。
 そう遠くない所、探知範囲に青マーク。
 水魔法で水を被る。ちょっと見て来る。

 外壁の一角、塔の様な部分。
 財宝やらを集めた部屋。
 階下から火の粉、火災が迫って来ているが。

「あっ、た、助けて!」
「縄が! 縄が取れなくて!」

 柱に縛られた子供が2人。
 急ぎ短剣で縄を切り……切れん。
 分解魔法で縄を解す。
 外壁上に出し、浮遊魔法で下に降ろす。

 あとは……金髪さんは?
 まだ避難してないのか?



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