黒鷲の旅団
4日目(6)一息
「そりゃ大変だったねぇ。
すぐ何か作るからね」
東区の酒場に戻り、少し遅い昼食に。
助けた子供達。
イェンナとフェドラ以外も尖った耳。
食べられない物とかあるか?
特に無いなら、俺と同じ物を頼もう。
食事を待つ間、話を聞く。
城壁から落ちて来たのがレーネ。
ダンピール、半分吸血鬼。
父はロンネフェルト伯爵。
高位吸血鬼の娘だという。
ダンピールはとても珍しい?
サンドラちゃんが説明をくれた。
売り飛ばす目的で攫われて来た様子。
住んでいた所は。
吸血鬼ハンターに焼き討ちされたのか。
家族は誰かしら生きているという。
帰れるものなら帰りたいだろう。
柱に縛られていた2人。
カリマとティルア。
こちらは近隣の村出身。
首都に来る途中で攫われて来た様だ。
カリマはハーフエルフ……
でなくて、ハーフ・ハイエルフ?
片親がエルフ貴族、お姫様なのか。
しかし駆け落ちして追手を掛けらた。
両親は殺されてしまい、孤児になり。
ティルアと同じ孤児院で暮らしていた。
ティルアはハーフ・セイレーン。
人を惑わすに足る美声の様だが。
特に魔力は持たないらしい。
半端者なのさ、と自嘲めいた自己紹介。
背中にも小さな翼があるが飛ぶ力は無い。
邪魔で困るよと肩を竦めて見せる。
ハーフ……みんなハーフか。
ユッタ達にしても、混血が多いな。
イメルさんが言う。
これは神聖教会のせいだと。
一代前の教皇が人間至上主義。
亜人種を強く蔑視していた。
その果てが民族弾圧政策の断行。
力の無い亜人種は、人間の奴隷や愛人に。
あるいは、気の毒がった人間が庇護して。
その過程で多くの混血が生まれたらしい。
しかし、現教皇の下。
弾圧こそ鳴りを潜めたものの。
亜人種差別自体は根強く残っている。
「ま、要は神聖教会が下手を打ったのさ。
亜人種達は、みんな不満を持っている。
続々と魔王軍に参入してる。
自業自得、救い賜え〜も無いモンだろ?」
肩を竦めるイメルさん。
彼女も魔女寄り。
神聖教会は気に食わないと見える。
「はいよ、お待たせー」
「ふわ、スゲェ。ご馳走じゃん」
「食べて良いの? ホントに良いの?」
運ばれてきた料理を前にして。
ティルアとカリマが目を丸くする。
暮らしていた孤児院は貧しかった様だ。
レーネの故郷は。
トランシルヴァニアだという。
現在、敵対勢力の支配下か。
真っ直ぐ向かうと戦争に巻き込まれる。
迂回するか、時間を置いた方が良いか。
カリマとティルアは?
友達が首都に出稼ぎに来ているハズだと。
顔を見せてから帰りたいという。
「マルカっていうんだよ?」
「冒険者なんだって。知らない?」
会った事は無いが……子供の冒険者か。
ギルドないし宿屋とか。
各地区の酒場なんかに居るかもしれん。
それぞれ、当面の生活費として。
俺から10万ずつ渡す。
返せたら返してくれればいいから。
深く頭を下げるレーネ嬢。
無理無く、返せる程度で良いからな。
慄くカリマとティルア。
とても返せない?
それならそれで構わんさ。
さて、これからの方針だが。
サンドラちゃん?
何かブツブツ言って……どうした?
攻城戦における阻害魔法の有効性?
火災時の魔法使用の留意点とか。
論文を書いてみたくなったという。
時間が欲しいのだと。
それじゃあ、午後は自由に使うとしよう。
捕まった子も気疲れがあるだろうし。
ユッタとマリナは冒険行けるよと言うが。
自分で思ってるよりも疲れてると思う。
鈍った動きでは大怪我の元だ。
「で、でもでも。
今日ほとんど何もできなかった。
もっと役に立たないと、申し訳ないよ」
「ユッタ。忘れたか?
後ろの見張り、頑張ってただろう。
兵隊さんの剣とか沢山預かっとる。
今度は爺ちゃん手伝っとくれ。な?」
ハミルトンも宥めてくれた。
熟練経験者、察してくれて助かる。
「あ、じゃ、じゃあさ。
そのマルカっての探しに行こうぜ」
「良いかもねー」
「賛成! 行こう行こう♪」
イェンナとフェドラ、トゥーリカ。
もう友達になったのか?
ティルア、気さくなイェンナと意気投合。
カリマは同じ半エルフでイェンナに興味。
トゥーリカはカリマが、というか。
両親の駆け落ち話が気になる様子。
輪に入りたそうなのはマリナ。
行っておいで。
借金の返済も、利息を払ったばかり。
次の支払いまで時間はあるだろう。
「マリナ〜、行かないのかー?」
「あ、じゃ、じゃあ……行くー!」
イェンナが引っ張ってくれた。
よしよし、子供は子供と遊びなさい。
フェドラはレーネを気にしている様だが。
当のレーネがシャイなのだろうか。
少し離れている。
「一緒に行くー?」
「わ、私は、その……いいです」
「そっかぁー」
レーネは少しぼんやりしている。
道中、色々な事があっただろう。
考えを纏める時間が必要かもしれない。
少し残念そうに駆け出すフェドラ達。
レーネは酒場に残るか。
あまり1人で出歩かない様に言い含めて。
俺は……うん。金策しないと。
前へ
/黒鷲の旅団トップへ
/次へ
|