黒鷲の旅団
4日目(9)凶矢
「用が済んだのなら早く帰られい。
門を閉められないではないか」
この人は監視だろうか。
気難しそうな大魔女様……
大魔女様、だよな?
腰に手を当て、むすっとしていた。
閉館時間が来たのか、鐘が鳴って。
俺は魔女協会の図書館を出る。
男が魔女の敷地に入っていて。
セキュリティ上よろしくない。
迷惑がられている感。
俺を見ている目は多い。
「ばいばーい」
「また来てねー」
「きゃーきゃー」
かと思えば。
悪戯っぽい笑顔を向けて来るのも居て。
興味を持たれている様だ。
好悪・多かれ少なかれ。
「あ、あらっ、お帰りですか?」
大魔女フレスヴェーナ様。
手には本が数冊。
おススメの本を用意してくれていた。
まだ読んでない物ばかり。
有難く借りて行きます。
「あ、あああ、あとで、ご飯っ!」
駆けて来て手を振るサンドラ。
ああ、また後でな。
繰り返し頷くサンドラ。
彼女の残して先に酒場へ向かう。
途中、鍛冶屋に寄って。
預けていた刀剣類を回収。
沢山あって大変だっただろう。
「なあに、腕が鳴る仕事って奴よ」
「私も手伝ったよ! ピカピカだよっ!」
ハミルトンに礼を言い。
良い出来だとユッタを褒める。
褒めていると……何だ?
悲鳴みたいな物が聞こえた。
急ぎ鍛冶屋を出る。
東区中層市街に戻ると何やら人だかり。
「王子様! 誰か、私の王子様を!」
騒ぎの中心にはレーネか。
血溜まりに膝をついている。
レーネの傍らにはフェドラ。
フェドラは負傷。
これはクロスボウの太矢?
矢を刺され、胸から出血していた。
深手だ。それも位置が悪い。
王子は知らんが、何があった。
「は、は、ハンターに、狙っ……
わわ、私を、庇って」
「へ、へへ……
友達に、なりた、かっ……ケフッ」
過去形にするな。すぐに助ける。
絶対に助けてやる。
こんな優しくて一生懸命な子。
その末路がこれでは酷過ぎる。
矢を抜きたくない。
が、抜かないと塞げない。
右手に矢を掴む。俺に所有権が移る。
転移魔法、トランスポートアイテム。
矢を保管庫に強制転送する。
同時、左手で治癒魔法。
並列発動、連射、速射。
治癒、治癒、とにかく治癒だ。
鎮痛……足りないか。陶酔魔法。
毒には解毒だが。
消毒は浄化魔法で良いんだったか?
まだ諦めるな。絶対に助ける。
繰り返しの治癒・活力魔法。
傷が塞がり、顔色が少し戻った。
解析魔法。HP表示は減っている。
が、継続ダメージは無い様子。
診察スキルは……
処置済み、と表示が出る。
一命は取り留めただろうか。
その助かったのを確認して。
立ち去ろうとするレーネ。
私のせい、巻き込みたくないなどと言う。
俺は彼女の手を引いて。
刀に手を掛けた。
「……えっ?」
飛来する太矢、2本。
居合いと返し刃でパリィ。
刀を捨てながら拳銃抜き撃ち。
バーストショット。
……どうやら逃げられたか。
騒然となる人混みの向こう。
残されていたのは血痕だけだ。
探知・空間魔法。足取りをという所で。
「あ、ひっ、ひいいいぃ……!」
後ろで転倒しているレーネ。
彼女に思い当たり、断念。
大丈夫か? 立てるか?
レーネは涙目。
肩は震え、歯も鳴っていた。
お前さんにも鎮静魔法が要るか。
残された太矢。
装填の遅い、クロスボウのボルト矢。
これが2本飛んで来たのだ。
犯人も複数だろう。
標的となったレーネ。
彼女をこのまま置いて行けない。
駆け付けて来る憲兵。遅い!
と、きょとんした顔をする。
何で文句を言われるのかといった風。
銃声に駆け付けただけ?
フェドラ、レーネへの襲撃ではなく?
憲兵カーム曰く。
吸血鬼を吸血鬼ハンターが狩る。
これは当然の事だと。
そりゃあ、この子は半分吸血鬼だが。
半分は人間で。
しかも全部子供なんだぞ!?
ユッタ達の件もそうだ。
どうも憲兵隊は当てにならん。
俺はフェドラを負ぶさって。
レーネの手を引いて酒場へ向かう。
「だ、大丈夫?
銃声が……フェドラちゃん!?」
ユッタが様子を見に来た。
大丈夫だから。
ハミルトンを呼んで酒場に来てくれ。
探知魔法の反応。
周囲は緑から黄色。およそ中立だが。
冷淡な衛兵隊でも緑、友軍マーク。
俺に敵意が無いと言うだけか?
判別が当てにならん。
どこに手引きした奴が居るかも知れん。
トゥーリカは頭上へ。周辺警戒を頼む。
怪しい奴が居ないか見ててくれ。
記録魔法がある? 後で詳しく聞こう。
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