黒鷲の旅団
4日目(10)半吸血鬼防衛作戦
〜間違った討伐依頼〜

「う、う、撃たれたって、聞いて……」

 イェンナ、ティルア、カリマ。
 後から3人も駆け込んで来た。
 持ち直した。もう大丈夫。
 知るや、へなへなと座り込む。
 ユッタ、ハミルトンは……
 すぐ店仕舞いして来るのだと。

 次いで、サンドラが大魔女らと来訪。
 事情を知るや、憤るやら嘆くやら。

「許しぇにゃい!」
「こんな小さい子達に、酷い事を……」

「きっと神聖教会のハンターだな。
 くそぅ、東区は私ら魔女の縄張りだぞ。
 好き勝手しやがって!」

 上級魔女ヘリヤ。
 応援を呼んで来ると言って魔女協会へ。
 戦争でも始めそうな勢いだが、冷静にな。
 煽られたら、俺も乗っかってしまいそうだ。

 シャンタル先生、フェドラの傷を確認。
 それと造血魔法ブラッドメイク。
 そんなのもあるのか?

「感心してるのは、こっちの方さ。
 転移魔法で矢を抜いたって?
 名案だよ。これなら傷も残らないだろ」

 お褒めに預かり何とやらだが。
 造血魔法、俺も習得してしまおう。

 フェドラは傷こそ塞いだものの。
 失血した為か体温が低い。
 幸い意識が戻った。
 女将さん何か温かい物を。
 レーネも少し食べた方が良い。

 探知、空間魔法……
 索敵範囲ギリギリに、敵反応3つ。
 見ていたら退いて行った。
 探知されているのに気付いたか?
 恐らくだが、諦めていないだろう。

 これは長い夜になりそうだ。
 交代で見張りをやる。
 人手はあった方が良い。
 魔女達も応援に来てくれる様だが。
 負担は減らしたいな。

 グレッグは連絡がつかん。
 まだ任務中か。

 ロッシィに通信。
 カシューさんも一緒。

 ダンピールの女の子が居て。
 吸血鬼ハンターに狙われてる。
 守ってやりたいので、手を貸して……

 と言いかけた所でカシューさん。
 転移魔法で酒場に来訪した。
 解析魔法を……レーネに?
 間違いなくダンピールだと確認する。

 冒険者ギルドの掲示板。
 吸血鬼討伐のクエストが出ているらしい。
 依頼人は不明。報酬はレアアイテム。
 彼女はロッシィとそれを見ていた。

 しかし、ダンピールは吸血鬼じゃない。
 吸血鬼はモンスター扱いでも。
 半吸血鬼は市民に当たるハズだと。
 レーネが標的にされている。
 なら、根本から間違っている。

 カシューさんから冒険者ギルドに連絡。
 役人が確認に来ると言う話で。
 問題はそこまでの間だな。

 女将が夕食を用意してくれる。
 食欲が無いとレーネは言うのだが。
 ユッタ、食べなきゃと主張。
 守るには力を付けないと。
 自分にせよフェドラにせよ。

 ふと見ると、フェドラ。
 造血魔法で食欲も出たのだろうか。
 夕食をモリモリ食べる。
 いや、食べて見せればと思ったのか。
 じゃあ私も、と控えめなレーネ。

「ん、美味しいです」
「美味しいよね〜」

「そりゃ良かった。
 どんどん食べとくれよ」

 食べっぷりに気を良くしたらしい。
 女将が俺に耳打ちする。

「吸血鬼じゃないんだって?
 最初聞いた時はビビったけど。
 お行儀も良いし、可愛い子じゃないか」

「安心したら腹減っちゃった。
 女将〜、あたしにもゴハン〜」

「はいよ、待っといで」

 イェンナに呼ばれて駆けて行く女将。
 彼女は『こちら側』と見て良いかな。

 イェンナにせよフェドラにせよ。
 美味しそうに食べるものだ。
 女将から可愛がられている。

 気になるのは冒険者。
 ここの在住はガイゼル達ぐらいだが。
 連中の生業は、大半が怪物退治だ。
 ちらちらと様子を窺って来る。
 その意図が分からん。
 彼らにとってダンピールは、怪物か市民か。

 と、何やら慌てた足音が駆け込んで来た。
 マリナと母親、娼婦のベラさん。
 どうした? 医者を探してる?
 通りで子供を治していた……って。
 ああ、多分、俺だ。

「き、聞いとくれよ。
 客に乱暴された子が居て。
 凄い血が出てて、もう意識も無くて……」

 どうする。ここを離れるのも不安だ。
 魔女達も強かろうが、相手方は人数もある。
 しかし患者も年若い子で。
 どうか助けて欲しいと。

 ……いっそ、こちらから切り出すか。
 ガイゼル、ちょっと良いか。

「おおおおうよ、任せろ!」
「ハンターなんか、追っ払ってやるぜ!」
「冒険者仲間じゃないですか」
「そうだ。少しは当てにしておくれよ」

 ん? 停戦協議のつもりだったが。
 援軍要請になった?
 通りでの口上を聞いていたらしい。
 すまん。恩に着る。
 せめて飯代は奢らせてくれ。



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