黒鷲の旅団
4日目(11)半吸血鬼防衛作戦
〜筋書きを書き換えて〜

「姐さん! 医者は?」
「この人が助けてくれるよ!」

 急ぎベラの家へ着く。
 リビングは血溜まりだった。

 被害者は少女、若過ぎる娼婦。
 小柄なユッタより若く見える。
 容体は骨が突き出る程の重症。

 治癒、鎮静、活力。
 解毒、浄化、造血魔法……
 何だ? 効きが悪い。解析魔法。
 精神状態が厭世、憂鬱、絶望。
 本人の意思が抵抗しているのか?

「もう、死にたい……死なせて」

 幸せにならない内に死んだらダメだ。
 娼婦だから無理? 汚いから?
 だから幸せにはなれないと。
 そんな事言う奴は誰だ。神様?
 そんな神様、俺が殴ってやる。
 世の中、試す様な神様ばかりじゃない。

 お嬢ちゃん、名前は?
 ペトリナ。可愛い名前じゃないか。
 美人じゃない?
 顔は可愛い方かな。声が美人だ。

 生きていても良い事なんて?
 俺はお前さんに会えて良かったよ。
 もう少し生きてくれないか。
 話をしよう。
 綺麗な声を聞かせておくれ。

 ペトリナは治癒を受け入れてくれた。
 傷が塞がり、血色が良くなる。
 再び解析……厭世と憂鬱は残るが。
 それでも絶望だけは消えた。

 傷は塞がったのだ。
 幾らか大丈夫だろう。
 娼婦仲間達に後を任せ……

 と、何だ。みんなウルウルしている。
 何か余計な事でも口走っただろうか。

 治療費なんて必要ないというのだが。
 心づけだ何だと言う。
 幾らか金を押し付けられる。
 挙句、身体とか諸々押し付けられ……
 ちょ、ちょっと待て。
 俺もう早く戻らないと。

 酒場に戻ると、入り口にバリケード。
 あとバリスタ2門。ナニコレ。
 ハミルトンの家から来た?
 魔女が浮遊魔法で運んで来た?

 見ていると、2人の人影。

「スゲェなコレ。
 あっと、よ、よう」

「坊ちゃまのご友人ですね!
 お初にお目に掛かります!」

 えーと……坊ちゃま?

 まず、気まずそうな金髪ロン毛の男。
 異世界からの友人サナトス。

 と新顔。女従騎士ルキュアさん。
 サナトス従者だという。

 どこ行っても両手に花かね。
 この坊ちゃまさんは。
 坊ちゃまってゆーなと、彼は照れ困る。

 続いて、グレッグも来てくれた。
 任務の方は終わったのか。
 ロッシィから連絡を受け取った様だ。

 裏口からからイメルさんも来て……
 と、誰それ。
 縄でグルグル巻きにされた男。

「怪しい奴を捕らえたぞ。
 敵の斥候かも知れん」

「はっはぁ、とんだ誤解だ!
 我輩はサンダーバロン。
 ただの物見遊山だよ。
 バロンっても伯爵だがな。
 はっはっはー!」

 見た感じ陽気な神人だが。
 続けて入って来た大魔女フリアリーゼ。
 こいつに油断するなよと。
 解析……レベル200超の強者。
 暴れられたら、抑えらえるか分からん。

 ……で、物見遊山が何だって?

「そうなのだよ、ハインリヒ君!
 キミ、良いRPやっとるね」

 RP。ロールプレイ。
 役割を演じる的な。
 そう言われてもピンと来ないのだが。
 サンダーバロンは聞いてない。
 こちらに構わず熱く語る。

「恵まれない子供達の為に危険を冒す。
 大変結構!
 ダンピールの少女を助ける。
 実にドラマチックだ!
 それだ! 物語を描くんだ!
 数字の遊戯じゃない。心の通った物語だ。
 みんな、どうか描いてくれと。
 我輩達は常日頃、願っている!」

 レベルがどうのとか。
 レアアイテムがどうのじゃない。
 この世界の一員としての振る舞いか。

 レーネを助けるのを是とするなら。
 彼も、必ずしも敵ではないのか。
 監視は続けるが、縄は外そう。

 サンダーバロン。雷男爵。
 という名前でスタートして。
 後々、出世して伯爵にまで。
 ネーミングでしくじった神人さんらしい。

 そのバロン伯爵?の話によると。
 今、この状況は悪い。
 吸血鬼討伐のクエスト発令から数時間。
 かなりの人数が受注した様だ。
 取り下げを依頼したが時間が掛かる。
 飢えた神人が寄って来るかも知れん。

 依頼人の目的は何だ。
 神聖教会所属だろうか。
 邪魔をされた腹いせか。
 そいつも物語を描こうと言うのか。
 その筋書きは俺の望む所じゃない。

 いいだろう。
 俺は俺が望む筋書きを、物語を描いてやる。



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