黒鷲の旅団
4日目(13)半吸血鬼防衛作戦
〜神人の集い〜
「あ〜ん〜、ごめんなさい〜。
まさか抜かれるだなんて。
わたくし、まだまだ。
まだまだですわ〜」
戻って来たカシューさん。
およよよ……よく言うわ。
引いているロープには、ぞろぞろ。
冒険者がぞろぞろ繋がれている。
「やー、勝てねえ勝てねえ。
やっぱカシューさん強いわー」
「悔しいぃ〜!
いつか見返してやるんだから」
パラディオンと仲間達。
カシューさんとは旧知の仲の様で。
「僕らは魔物退治に来たんだが。
この仕打ちは何だい?
何か間違った事をしたかな?」
両手を縛られた、見た目は美青年。
神聖教会所属、聖騎士。
ランスロットさんとその一行だそう。
大仰な名前はPKの標的にされる。
そして狩られればレベルダウンする。
そんな条件で高レベル維持。
プレイヤースキルも高いのだろう。
「あらやだ、ラーちゃん。
わたくしに口答えですの?」
「え、いや、しかし……
分かった。事情を聞こう」
ラーちゃんて……まぁ、いいけど。
グレッグと大魔女フッケバエナが帰還。
捕虜は子連れの女剣士キャスティーナ。
捕縛というより投降といった趣。
「我が子らに情けを掛けられたのでな。
こちらも、情の1つも見せても良い」
気取った口調はRPだろうか。
バロンさんとも挨拶。
やはり気が合う仲間らしい。
「いでで、いでで! 降参だってば!」
サナトス達と大魔女フリアリーゼさん。
共にバリー隊を捕獲。
バリーはフリアさんに尻を蹴られている。
お前、どこへ行っても……
「さて、君が今回の事件の首謀者かな?
討伐依頼と思って出向いたら。
待っていたのは、とんだPVPだ。
一体どういう趣きだったんだい。
聞かせて貰おうじゃないか」
物腰は丁寧に。
しかし幾らか剣呑なランスロット。
クエストを邪魔された。
そう考えれば、分からんでも無いが。
まず、討伐依頼を出したのは俺達じゃない。
標的にされた子が知り合いだった。
更にそれを庇って、他の子が負傷した。
放っておけない流れだと感じた。
それで抵抗してみた次第。
「NPCが知り合い、ね。
個人の趣味は否定しないが。
それでもNPCだろう。
こちらの主張を曲げる話とは思えないな」
ランスロットの視線。
尚も標的レーネを探している。
あくまで怪物退治は正義だと。
そしてレアアイテムは魅力的、か。
「では我輩からも1つ。
今回のターゲット、レーネ嬢。
彼女はヴァンパイアではない。
ダンピールだったんだ。
依頼内容に初めから齟齬があるのだよ」
バロンさんからも改めて説明。
吸血鬼ヴァンパイアは魔族、怪物扱い。
しかし半吸血鬼ダンピールは亜人種。
市民に属する存在である。
善良な亜人種の殺害。
これは法的に殺人罪に当たる。
依頼を貼り出した奴にしてもそうだ。
後々追われる事になるだろう。
確かめたいというランスロット。
レーネはしかし、怯えている。
俺の後ろに引っ込んでいる。
俺は後ろ手にレーネを庇い、緊張状態に。
「あんた顔が怖いのよ。代わるわ」
パラディオンチームの魔女。
名前はロードメイアさん。
彼女が代わりに解析魔法を掛ける。
レーネのステータスを公表。
一同、納得に至る。
「やれやれ、それじゃ仕方ない」
「ラーちゃん、ごめんなさいは? ん?」
「カシュー君には敵わないな。
分かった分かった。
悪かったね、お嬢さん」
謝ろうとするランスロットだが。
レーネは俺の後ろを離れようとしない。
殺され掛けたのだ。無理も無いか。
「しかしキミ、大した胆力だ。
プレイヤー特性か?
さっき詰め寄っただろう。
あの時、威圧スキルも使ったんだが」
ランスロットに興味を持たれた?
腰が抜けて動けなかっただけさ。
と、弱いフリでもしておこう。
「フッ、ローンレンジャーだな。
気取って生きるのも悪く無いが。
身の程は弁えた方が良いな」
笑って去って行くランスロット一行。
一番の脅威が去って、本当に腰が砕けた。
俺はそのまま、床にヘタり込んでしまう。
「怖くないんじゃない。
怖くても立ち向かうんだ。
一同、彼の勇気と気高さを賞賛しよう!
さあさあ、飲めや諸君。讃えよ彼をー」
ビールを持って来てくれたバロンさん。
大袈裟だ、と思ったら。
見れば赤ら顔で、もう大分飲んでるな?
クエストを棄却して。
それも伝わるまで時間があるだろうか。
他にクエストを保持している神人は?
居る、かどうか。確認方法が乏しい。
明るくなるまでは警戒を続けた方が良い。
警戒……人が居れば入り難かろうか。
冒険者達には、なるべく残って貰おう。
宴会費用として5万を提供。
各自、好きに飲み食いしてくれ。
親睦でも深めておくれ。
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