黒鷲の旅団
4日目(14)半吸血鬼防衛作戦〜宵越し〜

『依頼、取り下げられたよー』

 ロッシィから通信魔法の報告。
 まずは良かった。
 冒険者ギルドへの通報が叶った。

 再審査の結果、依頼は違法判定。棄却。
 役人の射殺にしても看過は出来ない。
 依頼者は必ず狩り出すという。
 全冒険者ギルドの威信をかけて。

 それなら、一安心……だな?

 索敵、空間魔法。解析。
 周囲に敵反応、無し。
 一安心。多分。


 一安心……………………かなぁ。


「まあ、その、悪かったよ。
 俺も止めようかって言ったんだけどさー」

「あー、自分だけ良い子ぶって」

 俺達で捕まえた神人、ブレイドレイド達。
 治療にはカシューさんが当たってくれた。
 死んでないのでペナルティも軽微だ。
 和解には応じてくれる様子。

 バリーやキャスティーナにしても。
 止めてくれて良かったと。
 剣呑に終わらずに済んで何よりだ。

 宴会の方だが、パラディオン達は帰還。
 明日の仕事の為、調整する。
 聞けば魔王討伐志願、修業中なのだと。
 なかなかストイックに稼いでいる様だ。

 カシューさんは王城へ出頭する。
 街中で攻撃魔法を使った事情の説明。

 キャスティーナ一行、残留。
 連れの子2人がトゥーリカに興味津々。

 バリーはサナトス達と再会を祝う。
 バロンさんはガイゼル隊と和気藹々。
 狙撃手2名はキャスティーナと飲んでいる。

 俺は一度、子供達の様子を見に。
 ハミルトン爺さんも。
 ユッタを連れて帰ると言うが。

「すぅー、すぅー」
「くかー、くかー」

 ユッタとイェンナ。爆睡。
 揃って寝息を立てていた。
 夜通し見張ると言っていたんだがな。
 子供は子供か。

 その隣にはフェドラ。
 2人を愛おしそうに眺めている。
 今は寝てても、来てくれた。
 元気付けになった様だ。

「まるで姉妹だな。
 どっちが姉ちゃんなんだか。
 友達、仲間……
 独りじゃねえってのは、良い事だ」

 ハミルトン爺さん、連れ帰るのを断念。
 ビール1杯引っ掛け、1人で帰るに至る。

 俺はまた酒場に戻る。
 フレスさんに借りた本にも目を通したい。
 読書しながら、俺は持久戦に挑もう。

 ベラさんが迎えに来て、マリナが帰宅へ。
 彼女も少し名残惜しそうだったが。
 ユッタ達も寝てしまったしな。
 今日は朝から大変だった。よく休んでくれ。

 聞く所、ペトリナの容体は大分良いらしい。
 明日動ける様なら、一緒に顔を見せて貰う。

 探知、空間魔法……異常無し。

 カウンター席に就く。
 女将に酒ではなくコーヒーを貰う。
 と、酒飲もうぜ酒〜と、バリー。

 仕方ないな……女将さん。
 ブランデーとシャンパンを。
 あと、氷。そうだ。
 氷晶魔法を試してみるか。

 コーヒーとシャンパン、ブランデー。
 カクテルはローヤル・コーヒー・パンチ。
 こいつは祝い事なんかに出される奴だ。
 お前らとの出会いと再会を祝って。
 とか何とか適当な事を言っておく。

「こっち来てカクテルなんて初めて見た」
「そっか、作りゃあ作れるんだ!」

 みんな集まって来てしまった。
 読書どころでないので、少し話を。

 バリーは3人パーティ。
 仲間はボインのお姉さん3人。
 悠々自適?の生活。

 キャスティーナは流浪の剣士だとか。
 子連れ。双子を連れている。

 それと、サナトス。
 この世界では自由騎士なのだと。
 遊歴の何とやら。
 どこぞの領主の私生児という設定らしい。
 その実家から従騎士ルキュアさん。
 従者として派遣されて来たのだと。

 ルーマニアには今朝がた到着したのだが。
 ルーマニア領主の公主様に拘束されていた。
 昼間の事件に顔を出せなかったと詫びる。

 それぞれ事情がある。仕方ないさ。
 幸い、子供達に死人は出ていない。

 一息。索敵、空間魔法。
 外部に反応が幾つか。
 解析魔法……ただの酔っぱらいか。

 やがて夜も更け、冒険者達も寝静まる。
 巡回役の魔女が交代で出入りする程度。
 レーネが寝付いた。
 フェドラもようやくウツラウツラ……

 ……ここからだ。

 俺が襲撃側なら、ここからだ。
 寝静まった所を狙う。
 守備側の俺としても。
 ここからが勝負時だろう。

 トイレに行って、自分に嘔吐魔法。
 酒を強制的に吐く。

 鏡に向かって洗脳魔法。
 自己暗示って掛かるだろうか?

 俺は子供達を守ると決めた。
 何に変えても、だ。



前へ黒鷲の旅団トップへ次へ