黒鷲の旅団
4日目(15)半吸血鬼防衛作戦
〜深夜の決闘〜
「よっ、タダ酒まだある?」
深夜過ぎ。
ふらりと現れた海賊ルックの女銃士。
アルビルダの友人メアリアンだと。
一応、面通しして、間違いなく。
酒ならまだあるからと酒場に入って貰う。
女将は就寝。
深夜営業は俺とロッシィで代理。
と言っても、客らしい客なんて来ない。
冒険者、神人、大半が酔い潰れている。
巡回帰りの魔女が顔を見せに来る程度。
……ロッシィは寝なくて良いのか?
「んー? んふっふー」
意味深な含み笑い。
これを訝しんだか。
フィービィがカウンター席に来る。
付き合ってるのかって?
いや、彼氏は俺でなくて。
「ふうん、妙に分かり合って見えたので。
同僚。戦友。それも良いな。
ん? そうだとすると、君はもしかして」
フィービィが何か言い掛けるが。
ちょっと待って。探知魔法に感。
識別は黄色……中立判定だが。
この識別は俺個人に対してだろう。
レーネに敵意を持っているか分からない。
マーカーに解析、が、弾かれる。何だ?
アルビルダが口を挟む。
曰く、解析を弾かれるのは開示の拒否だと。
プライベートな情報は公開したくない。
それは分かるが。
しかし、名前まで伏せるか?
アルビルダ達も眉を顰める。
すまん、少し様子を見て来る。
銃士チームも腰を上げるが。
お前さんらはここを守ってくれ。
ロッシィと2人、反応を追う。
距離が詰まると解析が強まるのか。
名前と基礎情報が見えた。
自由騎士ブルームーン。
神人。レベル27。
主武装、クロスボウ……
こいつがフェドラを。
「あっ、く、くそ!」
背中が見える距離。
向こうも気付いたか駆け出した。
探知魔法と空間魔法のコラボで追う。
マーカーの動きで移動方向は予測可能。
更に通信魔法を併用。
ロッシィ、右の路地から回れ。
袋小路へ追い詰められて。
ようやく足を止めるブルームーン。
しかし諦めたのは逃走だ。投降じゃない。
剣を抜いて斬り掛かって来る。
片手剣の一撃。
を、俺の両手剣が受け止める。
両手剣、諸手打ちでギリギリ拮抗した。
諸々こなして、今の俺はレベル14。
レベル差が。しかし、レベル差でも。
諸手打ちならレベル2倍に対抗出来る?
ともすれば効いているのか。
自己暗示の洗脳魔法。
ロッシィが俺の腰から自動拳銃を抜く。
凄腕でなくとも撃てる。充分。
牽制射撃を任せる。
その間に俺は照明魔法付与。
長弓。複数射。上方へ。
光る矢を放って照明弾代わりだ。
探知。魔女達の青マーカー。
こちらに集まって来るのが分かる。
ブルームーンの顔に焦りが見える。
魔女達の接近に気付いただろうか。
突破しようと掛かって来る。
斬り合ってもパワー負けする。
遠射だ。ロッシィが自動拳銃を連射。
俺もリボルバーでバースト撃ち。
「だあああ、くそ!
ちくちくちくちく痛ぇじゃねーか!」
ちくちく……ダメージこそ小さいが。
しかし痛いは痛いのか。
速射、並列、連射魔法発動。敏感魔法。
抵抗具合が分からん。
敏感魔法を大量に叩き込む。
一拍遅れてロッシィの銃弾1発。
「ぎゃあああああ!
あ、あっ、あああああ!」
派手に泣き叫んで転がり出した。
剣を振り回して危ない。
神経、痙攣、昏倒魔法。
トドメ、ロッシィがレンガを投げる。
物理で痛めつけて弱らせる。
弱らせて止まった所で、居合い一閃。
俺の刀がブルームーンの首を捉えた。
「が、ぶっ……く、くそ……」
首の取れたブルームーンの死体が転がる。
その脇に、も、ブルームーン?
首のついた半透明の姿。
神人が死ぬと幽霊に。
デュエル勝利、ドロップの交渉だったか。
それより聞きたいのは、事情。
何故レーネを狙ったのか。
「称号が……称号が、欲しかったんだ」
称号。吸血鬼退治人。
ヴァンパイアハンターの称号。
一定数の吸血鬼を倒すと取得できる?
達成トロフィー的な称号、らしい。
パラメータにもボーナスが入ると言うが。
そんな、くだらない物の為に。
この男はフェドラを撃って。
レーネの命を狙ったのか。
「な、なあ、頼むよ。
あと1匹なんだよ。殺させてくれよ。
称号さえあれば、俺は……俺は……!」
「バカね〜。ダンピールはノーカンよ?
未遂で止めてくれた事を感謝するべきね」
振り返ると……公主様?と騎士団の姿。
なるほど公主様、知っている顔だ。
イーディス・ブラックバーン嬢。
妹フィロメーラの友人。
もっと驚けと言われるが。
こっちは疲れてるんだよ……
ブルームーン逮捕。
罪状は、殺人未遂、殺人教唆。
あと、ギルドの役人を射殺して……違う?
撃ったのはこいつじゃない?
共犯者がもう1人か。まだ眠れんな……
ともあれ、ブルームーンは任せた。
俺達は酒場に帰ろう。
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