黒鷲の旅団
4日目(16)神よ見ているか?

『ふむう、面白い奴よ』
『少々不遜なのが気になりますが』
『何、元気があってよろしい』
『これからも期待しておるぞ、若者よ』

 ……ん、んん? 今のは?

 接続を切る間。
 何か聞こえた様な気がした。
 混線? ノイズでも入ったかな。

 ふと見ると、通信端末が鳴っている。
 出ると、イーディスお嬢さん。
 
『ツレなぁ〜い。ツレないぞぉ〜。
 折角出会ったんじゃん。
 もっと積もる話とかぁ〜』

 あちらも先刻までリンクしていたらしい。
 本当に疲れてたんだよ。
 また今度、顔を出しに行くから。約束だ。

 通信を切り掛けて、ふと思い立つ。
 切断の時に変な声って聞いた事あるか?

「ああ、神様トーク?」

 神様トーク……とは何ぞや。

 聞く所、神人の行いを見ている神々が居て。
 神人の行いについて時々評価して来る。
 という設定というか演出らしい。

 それならそれでも良いんだが……
 どこから聞いているんだかな。
 監視されている様で、落ち着かない話だ。

 まあ、見ているだけ。
 それなら、どうという事は無いのだが。

 試練と称して苦難を寄越すなら。
 子供達の命を脅かすのであれば。
 その時は本当に殴るぞ。

 あの子らに試しはもう間に合っている。
 あの子らに必要なのは、日々の糧。
 そして明日を生きる力だ。

 公主のイーディスさん。
 色々情報を貰いたいが。
 あちら側で情報を聞いた方が早いだろう。

 それに、夜も遅い。
 こちらの公主さんはまだ10代だ。
 付き合わせても悪いので通話を終了する。

 俺は本社ビルを出てセーフハウスの1つへ。
 匿っているラーティカイネンと合流した。

「解読は順調か? そうでもないか」

 預かっている情報端末だが。
 ロック解除には成功した。
 したが、端末内部がまた高度に暗号化。
 解読には時間が掛かるだろう。

 掛かるだろう、という事で。
 先に聞ける話を聞いておきたい。

「いや、話せる事って言っても。
 眉唾物だぞ?
 ……分かったよ。話そう。
 あの世界はな、別世界なんだ」

 言っている意味が良く分からない。
 そのまんまじゃないのか?

「いや、その……ホントにな。
 俺もどうかしてると思ったけどな!?
 その辺の証拠になるのがアレだ。
 例のファイルというか」

 だとして、何かヤバいのか。

 世の中、説明の難しい事はある。
 平衡世界や異次元が実在したとして。
 驚きはしても困りはしないだろう。

 神人による武器、技術の持ち込み。
 ある種のパラダイムシフト。
 繰り返される戦争、失われる人命。

 それは、しかし、無くはない話だ。
 異世界でなくても。
 現実であってもあり得る話だろう。

 そうではなく、ヤバい。
 そう断言する何かがある……のか。

 ラーティカイネン自身、専門家でなく。
 故に、上手く説明できないと言うが。
 人の流れ、金の流れ、通話ログ。
 素人でも不穏な物を感じたのだという。

 例のゲーム運営にしても。
 スポンサーが軍事企業だった訳で……
 何かしら怪しいと言えば怪しいのか?

 解析は続いている。
 進展があったらまた話そう。

「是非そうしてくれ。
 俺も、何とか説明できないか纏めてみる。
 それにしても、あんた良い人だよな。
 子供とか助けて、さ」

 そんなんじゃないさ。
 唯の代償行為だ。

 ゲームだ。神人だ。
 なりたい自分になれる世界だ。

 あの日、俺の時は来なかったヒーロー。
 ヒーローになって、あの子達を助ける。
 俺の代わりに、あの子達を助けたい。
 そんな代償行為に過ぎないのさ……



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