黒鷲の旅団
5日目(1)全員揃って今日を迎えて
「起きてくださーい!」
「わー、起きろー! 起〜き〜ろぉー!」
ナベの蓋をカンカン鳴らして。
ユッタとイェンナが起こしに来た。
朝……いや、もう昼前か。
夜更かしが過ぎたな。
日が昇るのを確認して寝た。
今、何時だ?
廊下に出る。
フェドラとレーネが待っていた。
2人とも、無事で良かった。
「怪我だって、すっかり塞がったんだよ。
ちらっちらっ♪」
フェドラ、胸元をめくって谷間を見せる。
ああ、うん、分かったから……しまって。
お前さんは何というか、発育が良いな……
酒場に顔を出す。
他の連中はもう出立した後か。
俺は遅い朝食だか、早い昼食を。
ふと女将、俺に客だと。
見ると、ベラとマリナ、ペトリナ。
ペトリナも、すっかり良くなった様子。
「おっちゃん、いいよな?
レー姉ちゃんも仲間に入れようよ」
「子供亜人チームだもんね!」
「よ、よろしくお願いします!」
俺の寝ている間に話が纏まっていた様だ。
まあ、放っておいても昨夜の続きだしな。
この可憐な半吸血鬼も鍛えてやらないと。
吸血鬼ハンターに負けない様に。
半分吸血鬼を、育てる。
ん? 何だか危険な事を言っている様な?
「旦那。もし良かったら、なんだけど。
この子……ペトリナもさ。
仲間に入れてやってくれないかい?」
ベラさんから申し出。
ペトリナも、マリナと同じチームに、か。
「マリナちゃんのお友達だね!」
「もちろん歓迎だよ〜」
ユッタ、フェドラが口々に同意。
「でもあの、私、娼婦で。
き、汚くて……」
オドオドと不安げなペトリナ。
受け入れて貰えるか不安な様だ。
ああーよくあるよくある、とイェンナ。
あんまり、よくあっても困るんだが。
汚くなんかないよと、ユッタが握手。
いい匂いがする〜と、フェドラがハグ。
サンドラちゃん、くんかくんか。興味津々。
マリナは……母と同じ仕事だ。
軽蔑するべくも無いか。
「あ、その……おじさまが望むなら」
拒否もしないのだが。
難しい顔をするのはレーネ。
仮にも伯爵令嬢、お上品な子である。
娼婦となると敬遠するのだろう。
と、ペトリナ。レーネに駆け寄って、
「凄い……凄いキレイ!
あのあのっ!
どうしたらそんな綺麗になれますかっ?」
「ふぇっ!? いいいいえその?
そんな、ととっ特別な事は」
照れるレーネ。
白い肌が俄かに赤く染まる。
「お嬢さんは娼婦なんて嫌かもだけど。
この子、客に酷く乱暴されてね」
押さねばと察したベラさん。
ダメ押しの事情説明。昨夜の容態。
子供達の目に怒りが灯った?
それはレーネも例外ではなくて。
「分かりました……必ず。
必ず仇を取ります!」
より物騒な方向に話が纏まってしまった。
「ただいまー。また空振りだよぉ〜」
「あれっ、みんなもお仕事するです?」
ティルアとカリマが戻って来た。
尋ね人、友人マルカ。
幸い、生存は確認できたらしく。
しかし稼ぐのに忙しいのだろうか。
なかなか出会えない。
ティルア達の村はとても貧しい。
何でも、国境近く?
以前、略奪の被害に遭ったとか。
大人達は愚痴と嘆願ばかり。
工夫と努力に欠けている。
そんな大人達を見かねて。
情けないと思って、だ。
丈夫な種族であるマルカ。
子供ながら出稼ぎに出ている。
ティルア達も応援してやりたい。
が、稼ぐどころか、だな。
俺に借りを作ってしまう始末。
俺の金は返さなくて良いんだが。
自分達でも稼げたら、か。
略奪への対抗力も必要だろう。
ティルア、カリマも仮入隊とする。
戦い方を覚えて貰う。
落ち着いたら村に帰るにせよ。
「ほい、これで、お嬢ちゃん達も冒険者。
お兄さんについてって。
しっかり稼いどいで」
女将からレーネ、ペトリナと。
ティルア、カリマへ。
魔法のマネーカード。
無等級の冒険者認定証。
一応の住所を東区エノーラの酒場とする。
総員、戦闘準備だ。
まずは装備を整たい。
パタパタ、パタパタ。
賑やかに9人分の足音がついて来る。
揃って今日を迎え、越えて。
また揃って明日を迎えよう。
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