黒鷲の旅団
5日目(12)寝苦しい夜

「よう、邪魔するぜ」
「何やら盛り上がっている様だが」

 あんまり気にしないでクダサイ……

 グレッグ、サナトスらが遅れて来店。
 指南書を幾つか見つけて来た様だ。
『魔女と騎士』『竜退治』を貸す。
 そっちのを見せてくれ。

 サナトスの『初級兵法指南書』から。
 軍略系基礎、兵科スキル。
 該当する引率兵科の能力を底上げする。
 歩兵や弓兵等は子供達にも該当する。

 グレッグの『初級探索指南書』から。
 採取スキルの親戚筋。
 採掘、釣果、狩猟スキル。
 採集やドロップ品の数と質を向上する。

 それと、看破、洞察、推論スキル。
 隠れた財宝、ギミックの発見。
 解除にも使える……のだが。
 相手の挙動を観察する。
 隙を探るにも使えるのだとか。

 次、『初級武術指南書』より。
 攻撃、ではなく攻撃知識スキル。
 斬撃や魔撃。
 攻撃の知識を高める。
 受け流すとか守りにも役立つらしい。

 あとは、うーん……
 取り忘れてるスキルって無いか?
 初期リストの残りから。
 裁縫、革細工スキルを取る。
 修理や作成の精度、効率を上げると。

 抗魔スキルというのは?
 対魔法防御のスキルらしい。
 カシューさんの追跡魔法も観た。
 シャンタルの束縛魔法も習得可能。

 と、あるわあるわ、だが。
 熟練者はこれらを更に鍛え込んでいる。
 数が増えたからと油断は出来ない。
 腕を磨いて行こう。

 あと足りないのは戦技系だな。
 武器の技。
 流石に夜間は訓練場が開いていない。
 明日は戦闘の見込みだが。
 また終わったら覗いてみようか。

「いぇーい、アプロディズ!」

 ロッシィ、悪戯。
 覚えた催淫魔法を放って寄越す。

 俺の対応は速射発動、反射魔法。
 跳ね返って直撃し、ロッシィが悶える。

「う、うおお……スゲェ。
 すっげぇムラムラする……」

「バッカじゃないのアンタ」

「公主さんでもいいです。
 ボクとベッドインしませんか」

「どんだけ見境無くなってんのよ。
 アンタ女でしょ……」

「女でも良い。何でも良い。
 お肌触らして」

「変態か。あーもー寄るな寄るな」

 イーディス公主も呆れ顔。
 ホント何してんだかな。

 悶えるロッシィはサナトスが担いで撤収。
 公主達も明日がある。今日はお開きに。
 明日の戦闘に備え、俺も早く寝よう。

 と、寝床に向かったまでは良かったのだが。

「ご主人様ぁ、ご褒美ぃ……
 んふんふぅ〜♪」

 こりゃダメだ。眠れん。
 カゴの中、寝ぼけたトゥーリカの寝言。
 どうにも気になってしまう。

 どんな夢を見ているのか分からないが。
 幸せそうに、丸めた布団を。
 もといハンカチを抱きしめている。

 トゥーリカちゃん。トゥーリカさん?
 人間年齢だと何歳ぐらいなんだ。

 耐性・抵抗力スキルに経験点が入る。
 ダメージ相当の刺激物。
 まぁ、妄想だけなら本人の自由だ。
 咎めても仕方ない。
 一旦起きる。酒場の方に行く。

 酒場では、女将とフェドラ。
 まだオヤツタイム?
 まだでなく、また?
 女将はフライドポテトを覚えて練習中。
 フェドラは食べ足りなかったか。
 それとも美味しくて仕方ないのか。

「お腹いっぱい食べれるってね。
 とっても幸せな事だよー」

 そうかー、幸せかー。
 フェドラは、いっぱい食べて可愛いな。

「えっ……え、えへ?
 えへへへ……?」

 ああ、すまん。
 何を言ってるんだかな、俺。

「ハインちゃんも何か食べるかい?」

 ありがとう、今日も綺麗な女将さん。

「や、やだよ、この子は。
 どうしちゃったんだかね、あはは……」

 うん……本当に。マズいです。
 どうかしちゃっとるらしい。
 恥ずかしいセリフが垂れ流しになる。

 解析魔法、セルフ。
 ステータス異常を確認。
 これが軽度の催淫だと。

 症状は、高揚、邪念、軽口。
 軟派傾向……暴走。
 バステの効果が言動にまで及ぶのか。
 シビア過ぎるわ。

 出所は、やはり『魔物美女大全』か。
 それとも、トゥーリカの寝言?
 ロッシィの魔法は防いだと思うのだが。

 鎮静魔法も試してみる。
 みるんだが、効きが悪い。
 重症でないから逆に、だろうか。

 バッドステータスには2つの表示がある。
 発症レベルと蓄積値ゲージ。
 蓄積ゲージがだんだん増えて。
 1本溜まると発症レベルが上がる。
 それだけ症状が悪化する。

 この蓄積値ゲージ。
 時間経過で徐々に減っている様だ。
 どこか人気の無い所で時間を潰そう。

 散歩と称して外へ出る。

 すれ違う娼婦フラビア。
 つい今日も色っぽいねと声を掛ける。
 職質に来た女憲兵イライザ。
 顔を見られて嬉しいなどと。
 ああもう、勝手に喋るな、俺の口。

 向かう先は門。門の外だ。

 夜はアンデッドの時間。
 そう言っていたのはサンドラだったか。
 門を出よう。
 ゾンビやスケルトンでも倒して発散しよう。



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