黒鷲の旅団
5日目(14)譲れない局面

「あーう♪」
「ああーう♪」
「あっふぅー♪」

 無邪気に喜びのダンスを踊るアルラウネ達。
 名前は、花が白いのがアンゼリシア。
 ピンクのベゴニエッタ。
 赤いのがポインセティナ。

 あんまり悪い奴らには見えない。
 カタコト口調で、気さくというか陽気。
 悪く言えばアホっぽくすらある。

 アンデッドとアルラウネ。
 その抗争の発端は場所取りだった。

 月光は魔力を高めるらしい。
 この丘は見晴らしが良い。
 が、墓地っぽい遺跡も点在しており。
 なるほど、需要が克ち合ったのか。

 アルラウネ達、体型こそセクシーなのだが。
 無邪気ダンスには治癒効果でもあるのか。
 見ていて状態異常ゲージが治まって来た。

 明日も早そうだし、礼を言って帰ろうか。
 腰を上げ、探知魔法。

 ……ん、範囲内に反応。

 赤マーク、敵反応が1つ。
 アンゼ目掛けて距離を詰め……何だ?
 接近が速過ぎる。
 認識するより先に斬り込まれる。

 俺は間に割って入り、抜刀。
 逆袈裟に抜き払う。
 襲撃者の進路を阻んだ。

 返って来たのは金属音。
 そこらの魔物じゃない。
 刀が折れる。後退。
 後退しつつ敵を見定め……

「おっとぉ、ご挨拶だな。
 魔物から助けてやろうと思ったんだが?」

 相手の顔を見て俺は血の気が引いた。
 ランスロット!
 マズイ! マズイマズイ!

 散弾銃、抜き撃ち。
 遅延・束縛魔法付与。
 速射閃光。水魔法連射。
 雷撃。感電も狙う。
 効きが悪い。
 スキルやレベル、装備の差のせいか。

「どわっ! ちょ、待っ……
 地味な阻害を!」

「に、人間さん!?」
「あうー!」

 いいから行け! 殺されるぞ!
 アンゼ達に撤退を促しつつ。
 俺は別方向へ走る。

「は、はははっ、これは決定的かな?
 魔物の肩を持って、聖騎士に歯向かう。
 悪の手先として成敗するには十分だ」

 何とでも言え。こいつらは殺させない。
 下がりながら二丁拳銃、連射。
 何でも良い。何か手を。
 アルラウネが逃げる時間を稼ぐ。

 銃弾が鎧で弾かれる。解析魔法。

 奴の防具。パラディンアーマー。
 名前はともかくとして。
 対飛び道具にレベル5の障壁?
 5大属性と神聖ダメージを無効化?
 状態異常耐性、毒、麻痺、睡眠と。
 混乱、凍結、炎上……

 クソッタレ、と言いたい所だが。
 閃光と遅延は効いてる様な。
 完全無欠でも無い。
 耐性の隙間を探せ。

 痙攣魔法、腹痛魔法、悪臭魔法。
 呪詛、昏倒……
 幻覚や疫病、恐慌魔法は効かん。

 悪臭、悪臭魔法。
 さっき撒いた水が酷い臭いに。
 そうだ、水。
 腐食魔法とか放り込んで。

「臭ッ! ふ、ふさけた真似を!」

 ランスロット激昂。
 どんな手段か、不意に目の前に現れた。

 両手剣でガード。
 ガードするも跳ね飛ばされる。

 20mぐらい跳ね飛ばされた?
 物理現象がメチャクチャだ。
 岩場に背中を打った。鎮痛魔法。

 すぐに身を起こす。
 倒れていた場所に刃が飛んで来る。
 俺の代わりに岩を抉る。

 反撃の重力魔法。
 少しは効いてるのか?
 何が効いてるんだ。
 ログを読み漁る暇も無い。

 反撃は敏感、痒疹魔法で嫌がらせ。
 強酸魔法。溶けないが、むせた?

 炎魔法は掻き消される。
 しかし水蒸気魔法では熱がるのか。

 土、分解、浮遊、加速、重力、風。
 連携発動。どうか。
 砂塵魔法サンドストーム発動。
 しかしダメージ微小。
 視覚阻害も効果が薄いな。
 相手も探知スキル持ちだろう。

「くっ、次から次へとおかしな技を!
 もう許さん! 正義執行!」

 激昂に激昂プラスのランスロット。
 正義だのは知らん。
 そのまま俺を追って来い。
 そんなランスの足元に、矢。
 枝葉の矢が飛来して。

「人間さん!」
「ああーう!」

 アルラウネ達。
 心配して追って来てしまった。
 援護射撃とか良いから! 逃げて!

 ランスロット、アンゼに狙いを定めた。
 一息に距離を詰め、剣を振り上げる。

 間に合うか? 速射加速、最大瞬発。
 アンゼに浮遊魔法。
 盾に重力付与、投擲。
 アンゼに投げた盾が直撃する。
 アンゼは吹っ飛んで斬撃を避ける。

 ランスは一瞬戸惑ったが。
 狙いを隣に変えるだけだ。
 俺が割り込んで斬撃を受ける。
 斬られて飛ぶ義手。
 更に蹴りを食らって跳ね飛ばされる。
 それを意にも介さず。
 奴は花人に狙いを定める。

「ははっ!
 それじゃあ、まず1匹!」

「ラーちゃんのおバカーっ!」

 ずがどぎゃん。
 ランスロットが宙を舞った。
 重力付与の掌底。
 放ったのは、カシューさん?



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